周東だけが知っている…1年間耐え続けた海野の重圧 「隆司に声をかける」本当の理由

海野隆司(左)、周東佑京【写真:加治屋友輝】
海野隆司(左)、周東佑京【写真:加治屋友輝】

5回のピンチを切り抜けた直後に見えたシーン

 大ピンチをしのぎ切り、ベンチへ戻るエースの元へ集まるホークスナイン。そんな中、選手会長だけが背番号62の元に駆け寄り、笑顔でおしりをポンとたたいた。「ナイス―!」。海野隆司捕手にそう声をかけたのは、周東佑京内野手だった。

 15日に行われた日本ハムとのCSファイナル第1戦(みずほPayPayドーム)。両チーム無得点で迎えた5回だった。1死三塁のピンチを背負った先発のリバン・モイネロ投手はレイエスを浅い中飛に仕留めると、続く郡司も三ゴロに打ち取ってスコアボードにゼロを並べた。延長10回サヨナラ勝ちを収めた試合の中でも、ターニングポイントとなったシーンだったことは間違いない。

 大事な一戦の先発オーダーに周東の名前はなかった。満身創痍で戦う選手会長にできることは、極限の重圧の中で戦う仲間を鼓舞することだった。「頑張っていますからね、たくさん」――。周東が明かしたのは、今シーズン大きな成長を遂げた海野への熱い思いだった。

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続きの内容は

・周東が明かした海野への「ルーティン」
・苦悩乗り越え海野が見せた「真の姿」
・頂点へ導く2人の「熱い絆」の全貌

「(レギュラーシーズンの)終盤に入ってからは特にそうだったんですけど、僕が試合に出ていなかった日はイニング終わりに隆司に声をかけていたんですよ。みんなピッチャーには行くんですけど、隆司には誰も行かないから。『俺は行ってやろうかな』みたいな感じで。それで久々に上(1軍)に来て、それを忘れてたので。ちょうどそのタイミングだったので」

「隆司には誰も行かないから」…周東の熱い思い

 周東が口にしたのは、自身の知られざるルーティンだった。守備が終わるたび、ベンチの選手たちは投手を笑顔で迎え入れ、ハイタッチを交わすのが一般的な光景だ。そんな中で、周東は海野のもとに駆け寄り、労をねぎらっていた。その行動の裏には、海野が背負う重圧を誰よりも理解していた選手会長の思いがあった。

「頑張ってますからね、たくさん。拓さん(甲斐拓也捕手)が抜けて、比べられながら1年間やってきて。今年が(主力として迎える)初めてのCSで。僕がふざけて隆司に行っている感じを少しでも出せば、いいかなと思って」

 リーグ優勝後の祝勝会で、今シーズンのMVPを聞かれた周東が口にしていたのは海野の名前だった。昨オフに正捕手の甲斐が巨人へ移籍し、負けが続いたシーズン開幕時には捕手陣に批判の矛先が向いたこともあった。それに対して無言を貫き、耐え抜いた海野の姿を知っているからこそ、この重要な戦いの中でも肩の力を抜いてほしいという周東の思いだった。

 海野自身も自らの役割の重要性をしっかりと理解している。「もうCS、日本シリーズで今年も終わりなので。先のことを考えてとかはないし、本当に勝つためだけにやっている」。開幕時とは比べ物にならないほどたくましくなった28歳は、サヨナラ勝ちに表情を緩めることなく球場を後にした。

 周東が笑顔で海野を迎えるシーンが増えれば増えるほど、ホークスは頂点へ近づいていく。歓喜の瞬間にはグラウンドで抱き合う2人の姿が見たい。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)