フェニックスで投手陣が装着する“謎の器具”
6日から開幕した秋季教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」。8日の楽天戦で先発した木村大成投手と2番手の宮崎颯投手は、それぞれ無失点の好投を見せた。その投球中、両投手の腕には見慣れない“黒いバンド”が装着されていた。
「(バンドを)付けないのに比べれば、投げづらいですよ。ちなみに体にもGPSを装着して投げていたので、めちゃ固定されている感じでした」。こう語ったのは、実際に器具を装着してマウンドに上がった木村大だった。
バンドの中には重さ7グラム程度の四角いセンサーが入っている。「試合で使っているのはこのリーグからです」。小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)が明かしたのは、若鷹を成長に導く“秘密兵器”の存在だった。試合での活用には明確な理由があった――。
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謎の器具「パルススロー」開発秘話と驚きの機能
故障予防だけじゃない!実戦導入の深い理由とは
秘密兵器を装着する、期待の若手選手の名前
「あれは『パルススロー』というデバイスで、肘にかかる負荷を可視化するものです。そのデバイスに加えてGPSを装着しているので、彼らの体にかかっている負荷量を把握しています。強化を進めるにあたって投げすぎ、投げなさすぎといったことを“見える化”して、試合で投げながら強化を進めるために数値を測っています」
こう語ったのは、大宜見諒2軍ストレングス&コンディショニングコーチ(S&C)だ。大学時代にアスレティックトレーナーについて学んだ大宜見コーチの知識と、小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)からの「フェニックス・リーグの試合で使ってみてはどうか」という提案が結びつき、この取り組みは実現したという。
「シーズン終わりくらいから話していて、フェニックスに行く時にどうかなと。小笠原さんがすごくそういうことを大事にしてくれていて。僕も今までやってきた経験があったので、やっている感じです」
身長や体重などを入力したアプリと連動させ、バンドとGPSを装着して投球すると、センサーが数値を計測。腕の振りやリリース角度、肘にかかる負荷などが数値化される。そのデータは、コーチやトレーナーだけでなく、選手自身もスマートフォンでリアルタイムに確認することが可能となっている。
器具を試合で装着する意図とは?
通常こうしたデバイスはリハビリ中の選手や練習時に使用されることが多い。なぜあえて実戦の場でも装着するのか。大宜見コーチが意図を語ってくれた。
「フェニックスリーグという特性もありますし、この秋の期間を今後につなげていくためにも、故障がちな選手でもやはり投げていかないと技術が上がっていかない選手もいます。彼らがより安全に練習をするために、選手にお願いして着けてもらっています。練習だけではデータの抜け漏れがどうしてもあるので、可能な限り試合でも協力してもらい、安全に強化できる環境を整えています」
肩肘は消耗品という考えのもと、かかっている負荷量を正確にモニタリング。どのくらいの投球量や強度がベストなのか、日々の練習プランに反映させる。この地道な取り組みが、選手の未来を守る可能性がある。「前田悠伍も今季手術にはなりましたが、シーズン通してずっとモニタリングしていたので。最後まで投げられたのはそこもあったかなとは思います」と効果を口にする。
小笠原コーチ「このリーグで有効活用できれば…」
実際に「パルススロー」とGPSを装着して登板した木村大は、2年前に左肘の故障を経験した1人だ。「シーズン中は厳しいですけど、今はトレーニング強化の時期なので。我慢して付けられています」。球団の意図を理解し、前向きに取り組む。好投を続けるからこそ、怪我でキャリアを停滞させるわけにはいかない。
試合での導入を提案した小笠原コーチは「他にも付けると思いますよ。肘に既往歴がある選手や、フォームやメカニックを把握していきたい若手ですね。このリーグでそういうのを色々と有効活用できたらという感じです」と語る。
フェニックス・リーグは、選手が個々の課題と向き合い、成長を遂げるための貴重な実戦機会。選手が安心して全力で腕を振れるように――。コーチやスタッフが導入した“秘密兵器”は選手たちを支えている。
(森大樹 / Daiki Mori)