正木は一塁での守備練習に取り組む
「完璧でした。長打を狙いに行って、それがホームランになったので。自分の感覚とバットの軌道が合ってるのかなと思いました」。今季絶望とも言われた大怪我から、ここまで這い上がってきた。7日の「みやざきフェニックス・リーグ」四国ILplus戦で特大アーチを放った正木智也外野手は充実の表情を浮かべた。
開幕を「5番・左翼」で迎え、17試合の出場で2本塁打とまずまずのスタートを切りながら、4月18日の西武戦(ベルーナドーム)で空振りした際に左肩を亜脱臼した。「左肩関節バンカート修復術」を受け、全治5~6か月の見立てだったが、驚異的な回復力で9月9日の4軍戦で実戦復帰。フェニックス・リーグでも初戦から3試合連続安打を記録し、好成績をマークしている。
レギュラーシーズンを終え、チームはクライマックスシリーズ(CS)に向かう。小久保裕紀監督が正木について言及したのは、代打としての1軍復帰の可能性だった。それでも、宮崎の地で熱心に取り組んでいるのは一塁での守備練習だった。CSで守りに就くことは考えづらい状況で、取り組みの理由を明かした。チャレンジの裏側には、長いリハビリ生活で強まった“特別な思い”が隠されていた。
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続きの内容は
・正木が一塁練習を続ける「真の理由」
・小久保監督が語る、正木選手の「起用法」
・長期リハビリで得た「肉体と知識の進化」
「『ファーストの練習しとけよ』とコーチからも言われましたし、僕も『やりたいです』と言いました。来シーズンに向けて、守れた方が(試合に)出る機会が増えるのかなと。できて悪いことはないですし。CSに向けてという感じではないです」
自身の希望もあり、実戦復帰直後から一塁の練習を続けている25歳。開幕スタメンを掴み、そのまま突き抜けたかった今シーズンだったが、自身を含めてチームは主力の離脱が相次いだ。そんな中、リハビリ中の正木の目に飛び込んできたのは、柳町達外野手や野村勇内野手らの目覚ましい活躍だった。
「1軍をテレビで見ると、僕が今年したかったことを達さんや勇さんがやっていた。やっぱり悔しかったですし、その反面すごいなとも思った。来年は本当にそういう存在になれるようにっていう思いでやっています」
首脳陣からの指示と、レギュラー奪取へ燃える自らの希望が合致して始まった一塁練習。その姿には、来年こそは1年間、1軍で戦い抜くという強い覚悟がにじみ出ていた。
目指すCSでの1軍復帰「結果にこだわって」
もちろん、目の前に迫るポストシーズンでの1軍復帰も狙っている。「(CSに)出られるなら出たいです。自分の能力、調子を上げるだけ。そのために結果にこだわって、あとはもう『首脳陣に決めてください』という状態でいられるようにと思っています」。
外野守備に制限がある正木に残された道は、代打での出場。小久保監督も「『代打で必要となれば……っていうコメントを(正木が)見た』っていうのも目にしました。本当に代打で必要となれば、帰塁ができないといけないですからね。その分、足(代走)もいるじゃないですか。そこまでは考えています。でも状態を上げて悩ませてくれているのはうれしいことです」。帰塁にも制限があることに懸念を示しながらも、その存在感には目を細めている。
長いリハビリ期間は、レベルアップの貴重な機会ともなった。「体重は変わらないですけど、筋肉量は増えました。瞬発系のトレーニングとか、なかなかシーズン中にはできない追い込みもできたので。そこは良かったです」。インスタグラムやYouTubeで海外のトレーニング動画を見て研究するなど、貪欲に知識を吸収し、肉体の進化を目指した。
「悔いなく、やれるだけやろうと思って」。今シーズン、そして来季へ。最高の舞台で進化した姿を見せるため、正木智也はバットを振り続けるーー。
(森大樹 / Daiki Mori)