松本晴が“悔しさ”を痛感した1試合
「うまくいかない時期の方が多かったですが、怪我なく1年間、投げ続けられたのは去年と比べても成長した部分。まずはそこが一番良かったです」。プロ3年目の松本晴投手が、初めて1軍でレギュラーシーズンを戦い抜いた。
決して順風満帆な道のりではなかった。今季は中継ぎで開幕1軍スタートを切ると、12試合連続無失点。安定感のある投球を続け、左腕も願い続けていた先発転向を掴み取った。7月から8月にかけて3連勝するなど、今季6勝。しかし終盤には5イニング以下で降板する試合も続き、9月に中継ぎに再転向となった。
7月3日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)では7回1失点(自責0)、14奪三振という快投。先発ローテーションに加わった当初は“怖いもの知らず”でいられたと自らも認めていた。しかし、同じような結果が続かない。「その試合の後くらいから、すごく悩んだりもしました。マウンドで怖くなるというか……」。今季経験した29試合の中で、成長と悔しさの両方を痛感した1試合があった。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
「マウンドで怖くなる」松本晴が後悔した“あの1試合”の真相とは?
眠れない夜を乗り越え、松本晴を成長させた「意外な助言」とは?
14奪三振の快投時より「今の方が上」と断言する“確かな理由”
それは優勝マジック「16」で迎えた9月7日の楽天戦(みずほPayPayドーム)。3回、ルーク・ボイト内野手に同点ソロを許すと、4回には太田光捕手に勝ち越し2ランを浴びた。4回3失点でKO。5敗目を喫し、小久保裕紀監督から「仕方ないでは済まされない」と厳しく評価された一戦だ。今だからこそ冷静に、自分を苦しめた要因を分析できる。
「調子がいいのに自分の迷いでうまくいかなくなってしまって。悔しい思いをしました。頭では分かっていても、マウンドに立つと(投げ)ミスが怖くなるというか。慎重さが自分を苦しめて、100%のパフォーマンスを出せないような状況を作ってしまいました」
試合の後には大関友久投手と2時間も話し込み、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチにも助言を求めた。その中で“光”が見えたという。「自分の中で『これが良いんじゃないか』という考えが整理できました。相手打者との対戦を最高の勝負にするために、自分がどういう準備をして、どういう投球をするべきなのか。考えをシフトすることができました」。もう1度足元を見つめたことで、フォーカスするべき点を洗い出すことができた。
成長の糧となった“眠れない夜”
後悔のあまり、なかなか眠りにつけない夜もあったという。8月7日のロッテ戦(ZOZOマリン)では5回1失点(自責0)で5勝目を挙げたが、1試合3失策。投手としては68年ぶり、プロ野球ワーストタイの記録だった。「ボコボコに打たれても寝られるんですけど、もったいないミスとか、惜しく取りこぼした試合ですね。悔しさが残ると、寝られなかったです」。思い悩んだ日々も、1軍にしかない重圧を知った証だ。
翌週の試合前練習では、黙々とノックを受け続ける姿があった。失敗からは絶対に逃げない。成長の糧にできるよう、自分自身と真っすぐに向き合ってきた。「いい経験も悪い経験も、どちらもするからこそ前に進むことができる」。勝つ喜びも、1球の怖さも知った。周囲に支えられ、これからもっと頼もしい存在になる。
「苦しいというか、なかなかうまくいかない壁にぶつかったところではあったんですけど、毎試合自分の引き出しが増えている。絶対にあの時(14奪三振を記録した日本ハム戦)よりも、今の方が上です。今の方が間違いなく良いし、あの楽天戦が自分を成長させてくれたと思います」
断言できるほど、身を持って感じた成長。たくましくなった左腕は、日本一を目指す上で欠かせない力となる。
(森大樹 / Daiki Mori)