連日行われた“居残りノック”
試合前練習が終わり、多くの選手が引き上げた後にも響いていた「お願いします!」の声。タマスタ筑後の室内練習場では、2軍投手数人による“居残りノック”が行われていた。そして最後まで声を張り上げノックを受けていたのが、6月に支配下登録を勝ち取った川口冬弥投手だった。
「ほとんど川口のためにやっているんだぞ!」厳しい声をかけながらノックを打ち続けたのは、奥村政稔3軍ファーム投手コーチ。3軍は9月27日のBCリーグ選抜戦まで試合がないため、奥村コーチが2軍の練習に参加しており、最近はタマスタ筑後で2軍戦が行われる日のノックは“日課”となっている。
奥村コーチが行うノックの背景にあるのは、支配下に昇格して初めて1軍登板も経験した右腕に伝えたい“気づき”だった。そして2軍再調整から2か月、右腕の現在地は――。
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続きの内容は
・奥村コーチが伝えた「1アウトの重み」
・球威低下の「本当の原因」と修正点
・1軍へ挑む「体づくり」の全貌
「1アウトを取る大変さ、1軍で分かっただろ?」
奥村コーチが改めて伝えたのは、“凡事徹底”の重要さだった。「確実に取れるアウトなんですよ」。投手自身による捕球や送球のミスは、試合の流れを大きく変えてしまう。
「連戦のカード頭に毎回ノックをしているんですけど、どの球場でも一番エラーが多いのが川口なんです。1軍に上がれば、やっぱり1アウトの重みは本当に大きい」。6月に2軍練習を見た時からそう感じていたが、当時は支配下昇格が決まった時期で、重点的にノックを打つ機会がなかったという。
「抑えるために練習してきたのに、自分のミスで失点するのはもったいない。ラッキーな打球でも、バタバタしたら失点する流れになってしまう。そういうところをなくしていこうと。川口が上手くなるまで毎日やります」
川口は社会人、独立リーグを経て25歳でプロ入りした苦労人。奥村コーチも26歳でプロ入りし、30歳で育成契約を結んだ。背番号3桁を背負ったまま31歳で現役を終えた。苦しい道を歩んできたからこそ、伝えたい思いがあるように見えた。
川口自身も真っすぐに向き合う。「不安要素はやっぱり取り除きたい。フィールディングが足を引っ張って、投球に影響するのが一番良くないので。そこはしっかりやりたいと思います」と力を込めた。
降格から2か月…川口が取り組む課題
7月18日に出場選手登録を抹消されてから約2か月。降格時、小久保裕紀監督も「良い時のストレートから(球速が)8キロほど落ちていた」と球威の低下を指摘していた。
川口自身も直球の威力低下を肌で感じていた。「球速は結果でしかない。その前の体の使い方やメカニックが原因だと思うので、そこを見直しています。球威が落ちてきているのは目に見えて分かっていた」と冷静に自己分析し、修正を重ねている。
そして動作解析データも体の出力低下を示したという。「今年は出だしから飛ばしてきて、体力や筋力が追いついていなかった。『ある意味仕方ない。これからの課題としてやっていけばいい』とトレーナーからも言われました。だから今は、自分の体の課題をもう一度見つめているところです」。
フィールディング、そして投球を支える体づくり。まだまだ成長過程の25歳右腕。再び1軍のマウンドで力強い直球を投げ込むために――。
(森大樹 / Daiki Mori)