ひ弱な姿は「全く見えない」 大津亮介が取り返した信頼…“怒り”から生まれた変化

6回無失点の好投で5勝目を挙げた大津亮介【写真:栗木一考】
6回無失点の好投で5勝目を挙げた大津亮介【写真:栗木一考】

6回無失点の好投で今季5勝目をマーク

“ひ弱な右腕”の姿はもうどこにもなかった。15日のオリックス戦(京セラドーム)に先発し、6回無失点の好投で今季5勝目を手に入れた大津亮介投手。「ランナーを出しても、大事な場面を抑えようと意識していました。粘ることだけ考えて投げました」。5回まで毎回安打を許しながら、あと一本を許さない気迫の投球だった。

 ここ3度の登板で18イニング連続無失点と、チームが優勝争い真っ只中の最終盤で救世主といえる働きぶりだ。過去には「戦う姿勢が見えない」と指摘されたこともあった右腕だが、この日はピンチを抑えるたびに雄叫びをあげた。開幕ローテ争いに敗れ、5月中旬からは約2か月間も2軍で汗を流してきた26歳。鍛えてきたのは心の部分だった。

「前半戦に自分が働けなかった分を取り返すために、個人的には頑張っているので。それに加えて、チームとしても負けられない戦いが続いている。とにかく全力で投げていきたいと思います」

 先発陣の軸になることを描いて臨んだ今シーズン。5月を終えて0勝1敗、防御率4.15と理想とは程遠い投球が続いていた。募ったのは自分に対する“怒り”だった。「ぶっちゃけ、本当にめちゃくちゃ悔しかったです」。2軍で好投しても、なかなか1軍から声がかからない毎日。気持ちが切れてもおかしくない状況だったが、常に前を向いていた。

ピンチを抑え、雄たけびをあげる大津亮介【写真:栗木一考】
ピンチを抑え、雄たけびをあげる大津亮介【写真:栗木一考】

海野が指摘した変化「間違いがない」

 5勝目を挙げた15日の試合。マスクをかぶった海野隆司捕手は大津の変化をこう評した。「ランナーを背負っても0点で戻ってきているところですね。きょうの試合もそうですし、ここ最近の試合でもそれができている。投げどころも間違いがないですね」。苦しい状況でも粘り強くアウトを重ねる右腕の姿に“本当の強さ”を感じていた。

 忘れたくても忘れられない記憶がある。昨年6月12日のヤクルト戦(みずほPayPayドーム)。先発で5回7失点と大崩れした右腕に、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)はこう口にした。「戦う姿勢を感じられなかったのが残念だったし、この姿ではマウンドに上がれないよという話はしました」。

 150キロを超える直球に、多彩な変化球を操る右腕。抜群の器用さを持っていても、目の前の打者に全力で挑む姿が見えなかった。約1年が過ぎた今年7月、2か月の2軍生活を経て1軍に戻ってきた右腕の変貌ぶりは顕著だった。

「今は1イニングずつ全力でいけているのが一番変わった点だと思います。精神面での弱さというのは乗り越えていると思います。そういう姿は全く見えないですね」。15日の試合後、倉野投手コーチは穏やかな表情で大津をたたえた。

 自身への怒り、そして悔しさを消化し、たくましさを増した右腕。リーグ連覇に向けて、大きな存在となるに違いない。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)