加藤洸稀さんが柳田からもらった言葉
筑後で好影響を受けたのは選手だけではなかった。右脛骨の骨挫傷から実戦復帰した柳田悠岐外野手はリハビリで今季の多くをタマスタ筑後で過ごした。3軍の打撃投手を務める加藤洸稀さんも柳田からの言葉に力をもらったひとりだ。
昨年オフに戦力外通告を受け現役引退。今年から打撃投手として第2の人生を歩んでいる。“出番”は突然訪れた。柳田がフリー打撃を再開した8月中旬。サブグラウンドで投げ込むことをお願いされた。
普段は3軍を担当する。滅多にない主力への“登板”に「緊張しましたよね」と振り返る。そんな加藤さんが忘れられないのは、練習が終わった直後の柳田の言葉だった。
「いい球投げるやん。まだ若いのになんで辞めたん?」
現役時代、加藤さんは育成選手としてホークスで3年間を過ごした。柳田とは入団直後の挨拶と、2023年オフのファン感謝祭「鷹奉祭」のイベントで会話したのみ。ほとんど接点はなかった中で、突然の一言。「驚きました。嬉しかったですね」と笑顔を見せる。
投手と打撃投手。同じ“ピッチャー”でも仕事内容は180度違う。今までは失投だった甘いコースを狙って投げるのは決して簡単なことではない。「いかに気持ちよく打ってもらうかを考えて投げています。やっぱり自分が打撃投手を務めた選手が活躍するのはうれしいですね」。一方で、調子の良し悪しもある。「うまくボールがストライクゾーンに集まらんなぁとかはもちろんあります」と試行錯誤の日々だ。
今季のホークスは開幕から離脱者が続出。1軍は序盤に苦戦を強いられた一方で、主力選手の筑後でのリハビリは“3軍打撃投手”にとって貴重な機会だった。加藤さんも栗原陵矢、今宮健太両内野手に投げ込んだ。「なかなか経験できないので。いつかは上で投げたいなって思いも出てきましたね」。裏方を極めたい――。そんな思いが日に日に強くなった。
「極めとけよ」…柳田の言葉で明確になった目標
そんな加藤さんが目指している存在がいる。1軍の打撃投手を務める濱涯泰司さんだ。2000年に選手から転向し、今年で26年目を迎える。長年ホークス一筋でチームを支え、近年は柳田の“相棒”として、専属に近い形で投げ込んできた。
柳田から伝えられた言葉は加藤氏が目指している道筋を明確にするものだった。「『今のうちに極めとけよ。極めとけば、20年も30年もできるから。濱涯さんみたいになれるように』って言われて。改めて頑張ろうと思いました」。選手は引退したが裏方としてプロを目指す――。加藤洸稀が第2の人生を歩み始めた。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)