痛恨の走塁死に小久保監督も「恥ずかしい」
「選手として、終わってしまうので」。自らのミスで追い上げムードをふいにしてしまった。失意の底にいた川村友斗外野手は誰よりも早くベンチを飛び出し、守備位置へと走り出した。
8月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)、チームは3-4で接戦を落とした。2点を追う8回2死一、二塁。川村は一塁ランナーの代走として出場した。柳町達外野手が中前に適時打を放ち、一気に三塁を狙ったが結果はタッチアウト。チャンスを潰してしまった。チーム全体に守備と走塁でミスが目立った展開。小久保裕紀監督は試合後に「この時期にこんな野球をしていて恥ずかしい。準備不足です」と吐き捨てた。
川村の走塁死によって終わった8回の攻撃。ベンチの空気も重くなっていた中、不甲斐なさを感じていたはずの26歳がダッシュでグラウンドに飛び出した。外野の守備位置に就き準備を始めたのは、誰よりも早かった。諦めることなく、必死に前を向いているように見えたシーン。川村は一体、どんな胸中だったのか。
敗戦の後は都内にバス移動…道中の心境とは
「“いけいけムード”を壊してしまった。自分の中では、あれで負けが決まっちゃったプレーだと思っています。アウトになった時は本当に頭が真っ白で……。『やってしまった』と思っていたんですけど、すぐ後には守備があったので。早くポジションに行った感じです」
キャッチボールで肩を作るための時間も必要だった。準備の意味合いを強調しつつ「完全に切り替えられていたわけではないんですけど、もちろん守備もちゃんとしないといけないじゃないですか。あそこで落ち込んでいても、誰も助けてくれない。それこそ守備でもミスをしてしまったら、選手として終わってしまうので」と具体的に続けた。地に足をつけながら、目の前のプレーに集中しようと必死だった。
9月1日、チームは関東から帰福するスケジュールだった。日曜日の試合後、ZOZOマリンスタジアムから都内のホテルにバスで移動。道中の心境についても、こう明かす。「支配下になって2年目。1軍であんな勝敗に直結したプレーをしたのは初めてだったので……。(振り返ると)『やばいやばい、切り替えられていない』って、ボーッとしちゃった感じも自分の中ではありました。監督のコメントも見て、絶対にしてはいけないことをしてしまったなと」。指揮官の苦言も受け止めるしかない。時間が経つほど、悔しさが込み上げてきた。
周東も経験してきた優勝争い…伝えた自身の本音
そんな川村に声をかけたのが周東佑京内野手だった。ZOZOマリンスタジアムのロッカー。「僕とハセさん(長谷川勇也コーチ)も近くにいたので。ハセさんも『俺がやってきたミスに比べたら、そんな大したことじゃねえよ』って言っていました。別に重く受け止める必要はないし、自分のせいで負けたと思ってほしくない」。自身の経験と偽りのない本音を伝え、優しく背中を押した。球界を代表するスピードスターも、何度も失敗を乗り越えて強くなってきた。
「まだこの時期でよかったとも思います。誰もが最初から完璧にできるわけじゃないし、川村も育成から上がって2年目じゃないですか。去年は去年で(チームは)独走していたし、こんな緊迫する試合もなかった。そんなに経験もないのに全部を完璧にこなせというのは難しいですし、彼にとってはああいう失敗がこれからの財産になると思う。僕がやってきたミスの中でも、そんなに大した部類ではないので」
プロ8年目を迎えた周東はこれまで何度も優勝争いを経験し、苦い思いを味わいながらも同じ失敗を繰り返さないように成長してきた。だからこそ「いつ負けても1敗は痛い。『大事な時期』っていいますけど、大事じゃない試合はないので」と足元を見つめる。「今試合に出ている選手がいなかったら、ここまでも来られていない。そんなにミスを気にしないで、今まで通り思い切ってやればいいと思います」。143試合のペナントレース、最初から最後まで全力で戦うのがホークスの野球だ。
3カードに渡る遠征を終えた9月2日、チームは本拠地に帰ってきた。川村は他の選手たちと同じように試合前練習をこなしていたが、出場選手登録を抹消された。「きょう球場来るのも……。どういうふうに振る舞えばいいのか、わからないです。僕、笑えていますか?」。悔しさを糧にして、必ず成長を遂げる。先輩たちのように、強くなりたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)