6点差の8回に自己最多11号「1ミリも関係ない」
チームにとって、そして何より自身にとってもラストスパートをかける時期だ。16日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)、6点を追う8回のシーンだった。野村勇内野手が左腕・小島のスライダーを右中間テラス席に叩き込んだ。ルーキーイヤーを上回る自己最多の11号ソロは、代名詞ともいえる逆方向への一発だった。
過去の自分を超えたことに関して「特別な感情は全然ないです」とあくまで冷静だった28歳。喜びを示さなかったのには理由がある。「全然、レギュラーでもないので。だってフルメンバーでもないですし。フルメンバーが集まった時に、試合に出ることが大事だと思っています」。
現在、左脇腹を痛めている今宮健太内野手が1軍復帰に向け、2軍戦で調整を進めている。16日の試合前には小久保裕紀監督も「健太は普通に見えますね」と言及。昇格が間近であることをにおわせた。自主トレを共にした師匠であり、ライバルの存在は嫌でも意識せざるを得ない。野村は何と戦っているのか――。その答えは意外なものだった。
「チームのために戦うとかって、やったことがないですね。これまでの野球人生で。そもそも野球は個人プレーだと思うので。こういう状況でもありますし、自分のことだけを考えてプレーしているだけです」
変えない勇気「去年までやったらありえへん」
言葉だけを聞けば、自己中心的に捉えられるかもしれないが、真意はそうではない。小久保監督も以前、新人選手にを前に語ったことがある。「チームのためにとか考える必要は全くない。そこに責任を負うのはベテランだけ。自分の力を高めることに集中してほしい」。あくまで1人の選手としてレベルアップしてほしいとの思いからだった。
「自分自身が打てば、結果的にチームのためになるっていう考えなので。それしかないと思います」。だからこそ、16日の試合では6点ビハインドと試合はほぼ決していた中でも全力を尽くした。「レギュラーじゃないので。別にチームが負けているからって、1ミリも関係ないので」。
2023年は打率.160、昨季は.116と苦しんだが、今季はここまで打率、安打数、本塁打、打点と軒並みキャリアハイをマーク。その背景には“変えない勇気”がある。「別にめっちゃ状態がいいとかじゃないんですけど。状態が悪い時でもなんとか1本打ったりっていうのは、去年までやったらありえへんパターンやったんで。そこは成長してるんかなと思います」。
今年1月の自主トレに誘ってくれた今宮も「コロコロと変えすぎる」と軸のなさを指摘していた。最大の弱点を克服した28歳が誓うのは、自分なりの恩返しだ。「(今宮が)戻ってきても、自分が試合に出たい。それだけです」。いいシーズンだったと振り返られるように――。本当の戦いはこれからだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)