指揮官の擁護も「関係ない」…前田悠伍の強烈な自責 1年前とは“別人”だった2イニング

前田悠伍【写真:矢口亨】
前田悠伍【写真:矢口亨】

5回途中5失点…初の千葉で喫したプロ初黒星

 3週間前に見せたさわやかな笑顔とは対照的な表情だった。「チームの流れを悪くしてしまう投球になったことが悔しい。自分の投球のせいで難しい試合展開にしてしまいました」。唇をかみしめながら振り返ったのは、5日のロッテ戦(ZOZOマリン)でプロ初黒星を喫した前田悠伍投手だった。

 風速10メートル近い強風に苦しめられた。初回は柳町達外野手の見事なバックホームもあって無失点にしのいだ左腕だったが、2回に手痛い一発を浴びた。無死一、三塁で山口にチェンジアップを左翼席中段まで運ばれ、3点を失った。5回にも1死二、三塁とされ、安田に右前適時打を浴びると、たまらず小久保裕紀監督はベンチを出た。4回1/3を5失点(自責3)。初のZOZOマリンでの投球は苦さだけが残った。

 降板を告げられマウンドを降りた左腕は、迎えてくれたチームメートの存在に気付かなかったかのように、うつむいたままベンチに戻った。4日に20歳を迎えたばかりの左腕が口にした自責の言葉――。そして得たものとは。

「チームメートの方にねぎらってもらうようなピッチングでもなかったと思いますし、初めての球場だったとかは関係ないので。そういう条件でも抑えられないと、これからも1軍で抑えることはできないと思うので」

KO後も津森を出迎え「悔しいままで終わっていたら駄目」

 試合後、小久保裕紀監督は左腕の投球にこう言及した。「マリンは初めてだったし、風が強くてかなり影響がありそうでしたね。初めてで修正するのも難しいでしょうし、今回はぶっつけ本番だったので。それも経験ですから」。極めて冷静に分析したうえで、20歳を責めることはなかった。それでも、前田悠伍は指揮官の言葉に甘えることはなかった。

 一方で、下を向いてばかりではなかった。自らの後を受けて登板した2番手の津森宥紀投手が5回を投げ終えると、ベンチ前で出迎えた。「悔しさはもちろんありますけど、ここで悔しがっていても何も始まらないので。こういう経験っていうのももちろん大事ですし、悔しいままで終わっていたら駄目だと思うので」。自らの感情はすぐに胸にしまい、チームのために前を向いた。

 千葉の地で見せたのは、1年前からの成長だ。プロ初登板となった去年10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)では、この日と同じように2回に4失点を喫すると、続く3回も2点を失ってノックアウトされた。今回は3ランを浴びた後の2イニングをともに三者凡退に仕留め、立ち直りの気配を見せた。ズルズルといってしまった“あの時”とは全く違う姿があった。

 昨年は“お試し登板”で、シーズン中にやり返すチャンスはなかった。しかし今回はまだまだシーズン中盤。やり返す機会は自らの手でつかみ取ることができる。「その違いっていうのはもちろんあります。1軍にいるからといって満足せずに、もっと広い視野で自分を磨いていきたいです」

 今季はウエスタン・リーグ記録を塗り替える41回2/3連続無失点という快挙を成し遂げた左腕。やられっぱなしでは終わらない――。リベンジの機会に向け、黙々と力をつけるだけだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)