石見颯真が受け取った「向き合い方」
ドラフト5位ルーキー、石見颯真内野手がファームで躍動している。打率.280、出塁率.408と高卒新人離れした数字を記録する裏には、「1年目なのでとにかく何でも試すことを目標にしている」というがむしゃらな姿勢があった。
しかし、緊張しやすい性格から、シーズン序盤は慣れない環境に気疲れすることもあったという。そんな石見にとって転機となったのが、栗原陵矢内野手や近藤健介外野手ら、主力選手との出会いだ。「1軍の選手を間近で見られただけでも、大きな収穫でした」。
中でも、名手・今宮健太内野手からかけられた一言は、野球観を変える出来事として強く印象に残っている。「守備の時、(今宮)健太さんから話しかけてもらったんです。緊張して自分からは聞けなかったんですけど……」。石見の胸に刻まれた“金言”とは――。
今宮は石見の動きを見抜き、「こっちの打球が苦手だろ」と指摘した。まさに石見が課題としていたプレーであり、それは今宮自身が最も得意とする動きでもあった。捕球の仕方を教わった後、逆方向の打球について尋ねると、名手から返ってきたのは意外な言葉だった。
「そっちは俺が苦手だから、感覚だよ。人それぞれだから」
この一言で、石見は肩の荷が下りたという。「健太さんでさえ得意不得意がある。そう思えたことで、割り切ってプレーできるようになりました」。全てを完璧に模倣するのではなく、自分の個性を理解し、自分だけのスタイルを築き上げること。名手からの金言は、大きな道しるべとなった。
守備技術だけでなく「生で見る打球への反応スピードやボールの持ち替えの速さに圧倒されました。それに、挨拶をすればいつも丁寧に返してくれる。人間性も本当に素晴らしいなと思いました」と、間近で見たスターの姿に大きな刺激を受けた。
「震えました」憧れの近藤健介との10分間
この学びは打撃にも生きている。目標の選手は「近藤(健介外野手)さんです」と即答。首脳陣に背中を押され、球界屈指の“安打製造機”に話を聞く機会を得た。「コーチから『聞いてこい』と言われて、10分ほどお話ししました。緊張しすぎて震えました」と初々しく振り返るが、質問内容は冷静だった。
「近藤さんの打撃論を聞いても、自分とは体格も元々の癖も違います。だからこそ、まずはその準備段階について聞きました」。アドバイスを胸に、様々なバットを試すなど、試行錯誤を重ねてきた。「少しずつ自分で変えたりしている中で、今がいちばんしっくりきています」と確かな手応えを語る。
高校2年で外野手から遊撃へ転向し、プロ入り後は二塁や三塁も守る。「まだ動きが分からないことがありますが、難しさを感じながらも三塁は少しずつ慣れてきました」と、課題と向き合う日々だ。
「1軍でどこでもいける準備をしていきたいです」。今季の目標を力強く語った。主力選手たちの金言を胸に、19歳はがむしゃらに汗を流す。
(森大樹 / Daiki Mori)