20歳翌日から2軍合流
やんちゃな笑顔で“師匠”とのやりとりを明かした。その成長ぶりは何気ない会話の中に見て取れた。高卒2年目の藤田悠太郎捕手は、20歳の誕生日を迎えた翌日の6月4日から2軍に合流。順調なステップを踏みつつ、1軍の舞台を目指して汗を流す若鷹が特別な師弟関係を明かした。その相手は、4軍で指導にあたる的山哲也バッテリーコーチだ。
「今は2軍にいて的山さんには会えていないんですけど、合流する時に『もう会わんでいいようにしとけよ』って言われました」。2軍で鍛錬する日々がはじまった藤田悠にとって、4軍のコーチと「会わない」ことは、さらに上を目指してプレーできていることの証になる。「そういう愛を僕はいただいたので、もう会わなくていいように頑張るしかないと思っています」。
プロ1年目の藤田悠にプロの厳しさを叩き込んだのが、的山コーチだ。「本当におんぶに抱っこでした。僕の甘かった部分を締めてくれました」。その指導はグラウンドでの技術的な指導だけにとどまらない。一見、野球とは無関係に思えるユニークな“教え”が成長を支えてきた。してやったりの表情で、20歳がその内容を語った。
言われる前に発する「ナイスヘアカット」
「的山さんの靴や髪型、サングラスが変わることがあるんですけど、その変化を言葉にしないと『おい、変わっとうぞ!』って言われるんです。『人の変化にちゃんと気づきなさい。ナイスヘアカットって言いなさい』と教えられました」
些細な変化に気づき、それを声に出して伝えること。これが的山コーチの狙いだ。ユニークな指導に思えるが、その意図は明確。捕手というポジションは常にグラウンド全体を見渡し、相手打者や走者、味方投手のわずかな変化も見逃さない観察眼が求められる。この教えには、そうした“気づきの力”を養う意味が込められている。
教えを受けて意識は変わった。最近も実践の機会があったという。「鈴木(駿介3軍)マネジャーの髪型が変わった時に、『ナイスヘアカット!』って言ったんです。その後に的山さんから『言ったんか?』って聞かれたので、『もう言ってます!』って返しました」。してやったりの表情で語る背番号65。師弟の微笑ましいやり取りの中にも、確かな成長の跡がうかがえる。
泣きまくったルーキーイヤー
2軍に合流してから約1か月が経った。「周りからは『順調だな』って言われますけど、自分ではわからないです」と足元を見つめる。「今は目の前のことを一生懸命やるしかないです」。厳しい言葉も、ユニークな教えも、すべては自分自身への期待だと受け止めてきた。
主に4軍で過ごした昨季は涙を流す日々だった。「何回泣かされたやろっていうくらい泣かされました。悔しくて試合中もベンチで泣いたこともありました」。何度も叱咤されるたびに悔しさを胸に刻んできたが、その厳しさのどれもが的山コーチからの愛情だと今では感じている。
「もう会わんでいい」。的山コーチからのはなむけの言葉は、心に深く刻まれている。日々の小さな変化にアンテナを張る習慣が、最高の舞台を目指すうえでも重要な武器になる。4軍にいる師匠に「会わない」ことが、最高の恩返し――。きょうも目の前のワンプレーに、全ての神経を研ぎ澄ませる。
(飯田航平 / Kohei Iida)