試合前に小久保監督から「とことん苦しめ」
ようやく明るい表情が弾けた。ソフトバンクは4日、西武戦に0-1で敗戦した。相手先発・武内夏暉投手が7回無失点の好投。打線が5安打に終わった中で、前向きな話題は30打席ぶりに柳町達外野手が快音を響かせたことだ。
7回2死から打席に入ると、内角球を左前に弾き返した。「いい形でボールの内側にバットを入れられたヒットだったので。そこは良かったかなと思います」。一塁上で笑みをこぼした。
6月22日の阪神戦(甲子園)以来、実に30打席ぶりの快音だった。「なんとか早く1本欲しいなと思っていました」と、もがき苦しむ中で、試合前には小久保裕紀監督と数分にわたって言葉を交わすシーンがあった。「とことん苦しめ」。指揮官から授かった言葉と、味わったことがない長い“トンネル”を、28歳のヒットマンはどのように感じたのか。
「本当に苦しみを分かっている人だからこそ言えることだと思います。苦しむ中でも、自分自身で解決するしか方法はないということだと思うので。ヒットが1本出たから、とかではなくて、今後もどんどん自分自身で答えを見つけていく作業をしていかなきゃいけないと思いました」
実際に無安打が続く中、打席での焦りも感じていた。「打てない、打てないと言いますか。ヒットが出ないと、『ボールを見ていこう』と思ってしまうので、それで余計に手が出ないと言うか。どんどんどんどん追い込まれてしまうサイクルになっていたなと、今振り返れば感じます」。自分のスイングをすることだけを意識してはいたものの、「何をやってもうまくいかない」と、違和感が残る打席もあったという。
この日も、帰路に就いたのは、ゲームセットから2時間が過ぎた午後10時半頃だった。「バッティングもしますし、体のケアや、ご飯も食べて帰るので。感覚が良くなるように打っていかないと、また次もダメになってしまうと思います」。状態に関係なく、試合後の時間は大切にする。どれだけ苦しくても方向性は見失わなかった。
小久保監督も味わった“長いスランプ”
小久保監督は1999年、4番打者として日本一に貢献した。「7月まで打率.180だったので」と、成績が出ない中でも主軸を外されることなく、重圧を経験した。「あの時期に比べたら、他のはスランプじゃないと思えるくらい。闇は深ければ深いほどいいんです」。自身の経験談を柳町に照らし合わせる。30打席ぶりに生まれたヒットは、忘れられない感触になったはずだ。
「一皮むけるチャンスなんじゃない? 極端な方がいいんですよ、成長するには。どうにかもがいて、野球人生を振り返った時にあの時間は苦しかったけど有意義だったと。そういう時間にしなさい、という話はしました。とことん苦しめと」
試合後、小久保監督が「7試合ノーヒットよりはね。ある意味、苦しんで記憶に残るヒットになったんじゃないですか」と言えば、柳町は「少し心は楽になったと思いますが、また次に繋げていかないといけない」と表情を引き締めた。苦しみからひとつ抜け出した28歳の表情は明るかった。
(飯田航平 / Kohei Iida)