妻の言葉を胸にプロ初安打 …「やっと解放された」
2人の“大切な日”がまた1つ増えた――。3日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)、山本恵大外野手が待望のプロ初安打を含む3安打の大活躍を見せ、お立ち台に上がった。その雄姿をスタンドで見届けた妻は、あふれる涙を止められなかった。「本当に野球選手なんだな」。苦しい時期を支えてきたからこそ、こみ上げる思いがあった。
ファームでは打率.378、4本塁打と結果を残し続けていた。「状態としても良い時に上げてもらった」と、自身も手応えを感じていた中での昇格。この日1軍へ合流すると、いきなり「6番・右翼」での先発出場を告げられた。
4月12日の支配下登録直後に1軍昇格した際には、11打席でノーヒットとプロの壁に跳ね返された。「不安と緊張はありました」。試合前の心境を振り返った一方で、打席では冷静だった。「欲しがらず、力まずということを意識しました」。重圧の中でも平常心を保てたのは、2軍で培った心のコントロールと、家を出る際に愛妻から掛けられた温かな言葉があったからだった。
「怪我せず、無理せず、楽しんできてねって言われました」
妻からの言葉を胸に、第1打席でプロ初安打となる右前打を放つと、力強く拳を握った。「ずっと1軍は(頭に)ちらついてたというか。準備はしっかりしてきたと思っているので。やっと解放されたというか、ちょっと安心しました」。一塁ベース上で感じたのは、喜びと安堵だった。
「2軍では、わざと自分を奮い立たせてみたり、逆にリラックスして打席に立ってみたり。自分の中で色々と変えながらやってきました」。4月26日に登録を抹消されてからの長い日々。その間も下を向かなかったのは、1軍で無安打に終わった悔しさがあったから。再びチャンスを掴むため、活躍することだけに意識を集中させてきた。その積み重ねが快音となって実を結んだ。
見守った妻…「感情移入しました」
妻はこの日、右翼を守る山本を近くで見られる席から見守った。記念すべき一打に「めちゃくちゃ泣きました」。喜ぶ背中と球場の大歓声に、大粒の涙がこぼれた。「育成の時も、リハビリの時もずっと見てきたので……。すごく感情移入しました」。一緒に帰路に就く際、山本が「今も泣きそうですね」と妻に優しい笑顔で声をかけるほど、うれしさと安堵が何度もこみ上げた。
試合直後には、初めて1軍のお立ち台に上がった山本。グラウンドから愛妻を見つけることができないほどの大観衆だった。「あんなにお客さんが入っている中でのヒーローは初めてだったので、ちゃんと受け答えできているか心配でした。すごく良い景色でした」。満面の笑みを浮かべる姿を観客席から見届けた妻は、再び感動の涙を流した。
「普段家にいる時は、いい意味で野球選手を感じないんですけど、本当に野球選手なんだなって改めて感じました」。妻にとっても、その新鮮な気づきが、何よりもうれしかったのかもしれない。
この日の輝きは、決して偶然ではない。「2軍では打っていたけど、1軍で打てなかったら……。そういう気持ちはすごくありました」。謙虚な男は常に不安と向き合いながら、自らを奮い立たせてきた。育成、リハビリ時代の苦悩、そして無安打の悔しさ――。それらを全て包み込んでくれた妻の涙。1軍選手としての人生が、今始まった。
(飯田航平 / Kohei Iida)