スタメンマスクとして今季初勝利を手にした谷川原
やっと手にした“初白星”だった。「普通に、いつも通りの平常心で、という感じですね」。淡々と語った谷川原健太捕手だったが、その表情には充実感がにじんでいた。6月29日のロッテ戦(ZOZOマリン)で、約3か月ぶりの先発起用。今季4度目のスタメンマスクで、チームが勝利したのはこれが初めてだった。
バッテリーを組んだのは東浜巨投手。5月7日の西武戦(ベルーナドーム)以来の先発マウンドで、6回まで三塁を踏ませない好投に導いた。試合後、右腕は「ほとんど首を振っていないと思います。タニの配球を褒めておいてください」と感謝の言葉を口にした。
昨オフ、甲斐拓也捕手が巨人にFA移籍。谷川原は熾烈な争いを制して、開幕スタメンの座を勝ち取った。しかし、先発マスクを被った3試合でいずれもチームは敗戦。開幕からわずか11日後、4月7日に出場選手登録を抹消され、2軍降格となった。
およそ2か月半のファーム生活。6月20日に1軍再昇格を果たしたが、汗を流した日々を振り返り、口をついたのは意外な言葉だった。「長かったですね。長かったですけど、すごく楽しかったです」。腐らずに過ごせた理由――。そこに、高谷裕亮バッテリーコーチは明確な成長と“変化”を感じ取っていた。
「2軍落ちして沈んではいたんですけど、その時間で細川さんに教わることができました。前向きになることができたので、練習も腐らずできたんだと思います」
支えてくれた存在…昇格の理由は「そこじゃないかと」
谷川原が何度も口にしたのは、細川亨2軍バッテリーコーチの存在だった。降格直後には「試合中に反省するな」というアドバイスを受け取ったが、それ以外にもブロッキングや投手とのコミュニケーション、捕手の“イロハ”を一から学んだ。
「細川さんに教えてもらえたことが自分の中でのスキルアップにつながった。(昇格の理由は)そこじゃないかなと思います。細川さんからは『やることは変わらないぞ。今までやってきたことを出してこい』と言われました」
細川コーチが求めたのは“自然体”のコミュニケーションだ。3月28日の開幕戦では、昨シーズン14勝を挙げた有原航平投手とバッテリーを組んだ。なんとかして結果を残さないといけない――。実績ある右腕とのコンビは重圧へと変わり、持ち前の明るさが消えていた。「タニっていう人間ですし、それでもやっぱり(自分らしさを)出していかないと。プロの世界では生きていけない」。冷静な目線はもちろんだが、投手に対して遠慮は必要ないんだと細川コーチは説いていた。
“谷川原らしさ”が体現されたのが、この日のロッテ戦だった。東浜とはファームでもバッテリーを組み、1軍マウンドを想定しながら準備を重ねてきた。試合ではカーブを多用し、緩急を生かしながらベテラン右腕をしっかりと導いた。7歳年上の東浜も「そういう配球は今までにないものだったので。特徴も踏まえたうえで勇気を持ってサインを出してくれた。そこはありがたかったです」と頭を下げる。息がぴったりと合った69球に、マスクを被った28歳も胸を張った。
「巨さんはずっとしっかり投げていて、陰で努力する姿を見てきたので。恩返しじゃないですけど、頑張ろうっていう気持ちでいましたし、助けたいっていうのはありました」
高谷コーチが見た変化「投手に意思を出しながら…」
試合後、高谷コーチはこう評価した。「『結果を出さなくちゃいけない』って空気だったのが、ちょっとなくなったね。自分のやれることを思い切ってやろうみたいな感じにはなっていました。しっかりピッチャーに意思というか、ジェスチャーを出しながらリードをしていたと思います」。長い2軍生活を経て、1回りも2回りも大きくなった。スタメン捕手として、投手を勝利へ導く存在へ――。背番号「45」が再びスタートを切った。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)