首脳陣が寄せる全幅の信頼「彼の活躍ありき」
“傷だらけ”のホークスを、レギュラーとしてもう1度支えている。交流戦を優勝という最高の形で終え、チームは36勝29敗3分けの3位。首位の日本ハムを3ゲーム差で追いかけている。みずほPayPayドームで全体練習が行われた25日。「成績はあまりよくないですけどね。去年よりは貢献できているのかな」。口を開いたのは、中村晃外野手だ。次々と主力が離脱したシーズン序盤に抱いていた思いを明かした。責任を「背負わせている」という首脳陣の真意にも迫っていく。
今季は63試合に出場して打率.250。安打数や打点はすでに昨シーズンを上回っており、重要な“ピース”としてここまでの戦いを支えてきた。「使いまくって誰が見てもへばっているけどね。4日間、試合がないので充電できますね」。交流戦を終えた小久保裕紀監督は冗談を交えて話していた。中村本人も「試合で疲れるというのが僕たちにとっては一番いいことなので」と、充実感を口にする。
開幕直後から離脱者が相次いだ2025年シーズン。柳田悠岐外野手、今宮健太内野手らは今もリハビリ中だ。選手会長の周東佑京内野手は4月23日に右腓骨を骨折し、1か月近くも戦列を離れた。栗原陵矢内野手や山川穂高内野手も本調子からは遠い状態。指揮官も「緊急事態」と表現するほどのシーズンだが、中村はあえて「そこを考えてもあまりいいことはない」と言う。
「自分の成績を上げることがチームのためでもある。(離脱者については)あまり考えないですね。そこを考えてもあまりいいことはないのかなと思う。打たなきゃいけない、なんとかしたいとか思いすぎるのはよくないので。それよりはヒットを1本ずつ、この打席でヒットを打つことだけを考える。どんな状況でも、それはランナーがいなくても満塁でも同じかなと思っています」
5月15日の西武戦(みずほPayPayドーム)以降は、4番での起用も珍しくなくなった。走者がたまった場面で、チームの期待を背負って打席へと向かう。「責任感というか、そういうものはありますよ。打てていないのに、ずっと(交流戦の)最後の方はスタメンだったので。過度に思うことはないですけど、なんとかしたいなっていう思いは常にあります」。11月には36歳を迎える背番号7。どんな時も自然体だからこそ、浮き足立つことはない。
阪神との3戦目に適時三塁打「試合状況的にも」
交流戦最後のカードとなった甲子園での阪神戦。中村は3試合で計11打数1安打に終わった。最終戦となった22日、1点をリードする8回2死二塁で打席に立つと、初球を左中間に弾き返した。ダメ押しとなる適時三塁打を放ち、塁上では拳を握った。「試合状況的にもあそこで1点を取りたかった。アウェーですし、相手も(セ・リーグ)1位のチームですから。(1点のリードでは)守る側もキツくなるかなと思ったので。なんとか……って思いはありました」と振り返る。
快音が遠ざかれば、自然と打席の中でも消極的になってしまうもの。14打席ぶりのヒットは初球を捉えたものだった。「交流戦も終わりですし。ある意味、開き直るじゃないですけど。思い切っていきやすかったですよ。阪神と次にやるとしても日本シリーズだけだし、あしたのことも考えなくてよかったので」。最終戦だったからこそ、投手との対戦に対してシンプルに集中できた。「それよりも1点ほしい状況でしたから」と繰り返すのも中村らしい。
2月の春季キャンプ中、小久保監督から「グラブを置いていい」と伝えられた。代打に専念するはずが、今は緊急事態を救う働きを見せている。奈良原浩ヘッドコーチも「当然、主軸として考えている。彼の活躍ありきで考えているところはあるし。怪我人もいて流動的だった中で、常に同じ準備をしてくれる。本当に頼もしいし『これくらいはやってくれる』と思っています」と、改めて全幅の信頼を寄せた。
山川が不調に苦しむ中、首脳陣は中村に4番を託してチームを勝たせようとしている。奈良原ヘッドコーチは「晃に責任を背負わせている、背負ってもらっている部分は大きいんじゃないかなと思います」と再敬礼する。通算1483安打を放ち、柳田らとともに常勝時代を築き上げてきた1人。「重圧だとかそういうものに耐えられる人間ってそんなにいるわけじゃないんです」。首脳陣の“総意”として、この先の戦いでも重要な局面を託していくつもりだ。
4月に柳田が離脱して以降、1軍では中村が最年長だ。「そこは全然考えていないですよ」と笑いながらも「(周東)佑京も、クリ(栗原陵矢)もマッキー(牧原大成)もいる。ずっと一緒にやってきた選手はいるし、それぞれがちゃんと自分のやることができれば勝てると思っています」と言い切った。重圧も悔しさも乗り越えて迎えたプロ18年目。中村晃の背中が今、どこまでも頼もしい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)