毎日行われる打撃練習…素朴な疑問を調査
試合前に行われる打撃練習。その順番はどのように決められているのか。あまり知られていない“日常”を調べてみると、何十年も鍵を握っていたのは「意外な役職」だった。
ホームは2か所、ビジターは1か所のケージに選手たちは順番通りに入っていき、打撃練習を行う。小久保裕紀監督は遊撃や二塁の位置から選手のスイングを確認するのがルーティン。「きょうはバッティング練習からいいと思ったから」と、時にはスタメン起用にも反映させる大事な時間だ。チームとしてほぼ変わらない試合前の打撃回り。素朴な疑問を村上隆行打撃コーチにぶつけてみた。
「どの選手がどのピッチャー(打撃投手)を打つのかで決まっているんですよ。やっぱり状態を常に一定にしておきたいっていうのがあるから。僕はいろんな人の球を打ちたかったけど、今の選手たちは同じ人を打ちたがる。打撃投手の人たちも、そこに投げたいっていうのがあるみたいです」
野手と打撃投手は強い関係性で結ばれている。シーズン中はもちろん、自主トレ期間中に練習を手伝ってもらうことも多い。ほぼ1年間を通して自身のバッティングを見てもらうのだから、些細な変化にも気づいてもらいやすいというわけだ。
村上コーチも指導者として多くのキャリアを積んできたが「この流れは変わらないですね。たまに『ごめん、ここで頼むわ』と順番を変える時もありますけど、だいたいは決まっている。『僕はこのピッチャーを打った方がいいです、打ちたいです』っていう要望は絶対に来ます」と明かす。
今のホークスでいえば、“例外”は山川穂高内野手だという。16日に再調整のため出場登録を抹消されたが、2024年に加入して以降、主砲としてチームを何度も救ってきた。「山川は“回し”で打ちたいんですよ。じゃあ一番最後ね、ということです」。時間内にひたすら打ち続けるのではなく、数球を打つとパッと交代し、それを繰り返すのが「回し」だ。ホームの打撃練習でいえば最後の組。若手の中に山川が交じって調整していたのも、明確な理由が存在した。
3組目で必ず登板する打撃投手の存在
ホークスで打撃投手を務めて26年目、選手から厚い信頼を寄せられているのが浜涯泰司さんだ。数年前、柳田悠岐外野手に「誰かの自主トレに行っているんですか? 来てくださいよ」とお願いされ、“相棒”を請け負ってきた。「昔から順番とか、そういう基本的な流れは変わっていないね」という。「全員の意見は聞けないから」というが、主力選手の要望が優先されるのは確かだ。
打撃練習において浜涯さんの“登板”は必ず3組目。柳田をはじめ、かつて小久保裕紀監督や内川聖一氏らを相手に投げていた時も3組目だった。その流れは数十年にわたって同じだ。「(試合前練習で)先に守りたいのか、バッティングがしたいか。選手にもよるんだけど、ギータとかコンちゃん(近藤健介)、(周東)佑京は、打ち終わったらもうご飯を食べるのよ。試合までゆっくりしたいから3番目に打つって感じかな」。
最終組である4組目が打ち始めている時には、自分の調整を終え、試合に備えてリラックスしている。それも主力選手たちに許された“特権”だろう。試合前のバッティング練習は「この打撃投手を打ちたい」という選手の思いが、色濃く反映されている。「それもあるし、同じ人を打った方が調子の良し悪しもわかるはず。自分たちも投げやすいしね」と浜涯さんは続けて語る。
現在、ホームゲームで浜涯さんが投げているのは近藤健介外野手、柳町達外野手、中村晃外野手、周東佑京内野手の4人。「バッティング練習と試合の結果が全く関係ない選手もいるし、リンクする選手もいる。ギータとかコンちゃんとかは、練習で『大丈夫かな』って思っても試合で普通に打つし。佑京やクリ(栗原陵矢)は意外と、結構わかるタイプ。練習の内容が試合に直結する」。打撃投手だからこそわかる“領域”。そんなところから目を凝らして見ればきっと、選手が見せる準備の奥深さにも気づけるはずだ。
「(中村)晃だったら今年はバッティング練習自体を変えているのよ。去年までは引っ張って練習しとったけど、今は逆らわないでしょ。センター、レフトを意識している感じ」。自分の姿を、ずっと見てくれている。だから選手たちは打撃投手に全幅の信頼を寄せる。試合で結果を出すために--。プロ野球選手の「準備」には、些細な部分にも必ず理由がある。
(竹村岳 / Gaku Takemura)