【連載・前田悠伍】村上泰斗との独特な関係 1歳年下、同じドラ1後輩に対する“本音”

前田悠伍【写真:竹村岳】
前田悠伍【写真:竹村岳】

村上泰斗が“名指し”で「負けたくないです」

 人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。前田悠伍投手の6月後編は、村上泰斗投手について語ります。1歳年下で、同じドラフト1位でプロ入りを果たした2人。後輩が口にした「絶対に負けたくない」という言葉を、どのように受け止めたのでしょうか。

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 前田悠は今、ウエートトレーニングに重点を置きながらスケールアップを図ろうとしている。「ほぼ毎日です」。朝6時から黙々と筋力アップに励む中、頻繁に顔を合わせるのが村上だ。後輩右腕が「挨拶をするだけで、その後に会話はありません」と言えば、背番号41も「そんな感じです。どっちも集中してやっているからじゃないですか?」と話す。2人しかいない空間には、独特の緊張感が流れているようだ。

 前田悠は大阪桐蔭高時代には3度の全国制覇を経験し、2023年ドラフト1位で入団。翌年、同じく1位指名を受けた村上と福岡でチームメートになった。高校時代、村上がいた神戸弘陵高と「練習試合をしたのは覚えているんですけど、確か僕は投げていなかったと思うんですよね」と記憶をたどる。現在の関係性についても「あんまり話したりはしないですね」と、包み隠さずに明かした。

 毎年12人しか現れない“逸材”。常に「ドラ1」という肩書きで注目される。18歳からプロの世界に飛び込み、重圧を背負うのは2人の共通点だ。前田悠は村上に対して、どんな感情を抱いているのか。

「去年僕もドラフト1位で入ってきて、右も左もわからない状態から、少しずつ試合で投げていった。その時も自分は年上がどうだとかあまり気にしていなかったので。2年目になって後輩も入ってきていますけど、変にいい姿を見せようとかはせずに。ただ自分のやることだけをやっています」

口にはしなくとも抱く思い「絶対負けへん」

 前田悠自身も、自他ともに認める負けず嫌い。「村上がどういうふうに思ってそれを言っているのかはわからないですけど」と前置きしたうえで、「負けたくない」という言葉も率直に受け止めた。追いかけるべき対象として見てくれていることに感謝しながら、左腕も「負けない」とはっきり言い切った。

「僕自身もいろんな人に対して、勝手に競争というか、『絶対に負けへん』という思いもあるので。そういった気持ちはめちゃくちゃいいなと思いますし、簡単に負けないように。簡単にすっ飛ばされていたらダメだと思うので、自分も負けるつもりはないです。負けないし、常に上がっていけるように、停滞するところがないようにはしていきたいです」

村上泰斗【写真:竹村岳】
村上泰斗【写真:竹村岳】

 熱い感情は胸に秘めながら、同僚たちと接している。岩井俊介投手、大山凌投手ら同期入団の“年上組”に対しても、グイグイと距離を縮めてきた。一方で「確かに普段は仲よくしていても、練習になったら別。自分がやらないと、1軍には上がれない。そういうメリハリはしっかりつけないといけないです」と、群れるのではなく、切磋琢磨していくべきと捉える。プロ2年目の19歳は、1人の時間が自分を高めてくれることを理解している。

練習の中でも必要なのは“メリハリ”

 昨オフの自主トレでは千賀滉大投手、今永昇太投手らと汗を流した。メジャーリーグでも活躍する先輩の姿は、前田悠の目標をさらに高くさせた。だからこそ、村上の「負けたくない」という言葉も大切に受け止めながら、自分よりももっと先を見てほしいという思いもある。才能を秘めているとはいえ、前田悠もまだプロでは未勝利。「村上からしたら僕は1個上。僕の1個上でもすごい人はいますけど、そこを見るかと言ったら……」。後輩への貴重なメッセージを口にした。

「すごい人はたくさんいる。それで僕は今永さんや千賀さんのところに行きましたし、僕のレベルを見て(目標を)達成しても、そこにたどり着くためだけのプランになっちゃうじゃないですか。でももっと先を目指していたら、それは通過点になる。もし僕に勝ったとしても、『まだまだ』っていう気持ちになれる。村上の考え方だし、何を考えて、そうやって(負けたくないと)言ってくれているのかはわからないですけど。僕は目の前より、先を見るタイプなので」

 いつかはホークス投手陣における“両輪”となることを期待される2人。今はまだ、一歩ずつ鍛錬を積んでいる。多くの言葉は交わさない――。2人だけの関係性からも、目が離せない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)