松本裕樹と海野隆司が繰り返した確認 雄叫びに込めた意味…“ギア上げ″の明確な理由

雄叫びを上げる松本裕樹【写真:栗木一考】
雄叫びを上げる松本裕樹【写真:栗木一考】

松本裕樹と海野隆司…重要な鍵を握った7回の攻防

 絶体絶命のピンチを乗り越えた2人のガッツポーズだった。3-1で勝利し、6年ぶり9度目の交流戦優勝を飾った22日の阪神戦(甲子園)。一打同点の状況を招きながらも無失点にしのいだのは、松本裕樹投手だった。津森宥紀投手の頭部死球による危険球退場もあり、怒号も飛び交った敵地での一戦。マスクを被った海野隆司捕手の“一言”に、投手陣は奮起してみせた。

 打線は4回に2点を先制。直後に1点を返され、試合は1点差のまま終盤まで進んだ。7回に背番号66がマウンドへ。連打で無死一、三塁とされたが、後続を打ち取りリードを守り抜いた。

 松本裕は今季22試合に登板して2勝1敗、18ホールド、防御率1.27を記録。圧倒的な安定感でブルペンを支えている。1点リードのマウンドを託され、3つのアウトを奪った右腕は、拳をあげて雄叫びを上げた。熱い思いを見せる、明確な理由があった。

「本当、変な感じだったんですよね。変な感じでピンチになってしまったので。その辺もあったのかなと思います」

 先頭の大山に左前打。続く高寺にはバスターで一、二塁間を破られた。油断していたわけではなく、“気がついたら”ピンチが広がっていたような状況だったという。「もちろん、あの流れのまま同点にされることだけは避けたかったので」と意図的に気持ちのギアを上げたことが、最後のガッツポーズにも繋がっていた。

 緊張感あふれる投手戦。当然、入念な準備も怠らなかった。1つ目、2つ目のアウトを奪うたびに、海野との会話を繰り返した。「どういう作戦があるのか。こういうバッターだからこうやって攻めていきましょう、と。確認をした感じです」。マスクをかぶっていた背番号62は「塁が1つ空いていたので、簡単にはいかないように。(変な感じというのは)僕も感じていました」と明かした。雰囲気に飲まれることなく、バッテリーは頭の中をしっかりと整理していた。

頭部死球の後は大山凌が登板…海野が伝えた一言

 6回1死の場面では津森が中野に頭部死球を与え、危険球退場となった。主力選手のアクシデントに、甲子園は騒然。バトンを受け取り、マウンドに上がったのは大山凌投手だ。海野が伝えたのは、たった一言。「何も言うことはないから、思い切ってこい」。余計なことを考えさせないためにも、シンプルな言葉で意思を共有した。「流れが変わりやすいなと感じていたので、アウト1つ取るのを急がないように」。異様な雰囲気の中でも地に足をつけて投手陣を引っ張っていた。

ピンチを乗り越えて握手する松本裕樹と海野隆司【写真:栗木一考】
ピンチを乗り越えて握手する松本裕樹と海野隆司【写真:栗木一考】

 海野の姿を、高谷裕亮バッテリーコーチも高く評価した。「流れ的にはどちらに転がってもおかしくなかった。時間をかけてでも、球数を費やしてでも次の1点を取られないように。『どうしようどうしよう』じゃなくて『大丈夫だ!』って、すごく落ち着いているように見えました」。捕手陣に対して、求めてきたのは堂々とすること。今季40試合出場を重ねてきた海野の成長が目に見えたシーンだった。

 7回の“変な流れ”は、高谷コーチも感じ取っていた。「先頭打者が出た時に『ちょっと気持ち悪いな』って。『うーん』とは思いましたけど」。阪神サイドは、作戦を仕掛けてきた。動じることなく、無失点で戻ってきたことには「慎重にはなっていましたけど、最後は開き直って点を与えなかったことが(8回の)3点目に繋がったじゃないですか。僕もガッツポーズしましたよ。落ち着いて対処してくれました」と手を叩いた。

 松本裕が「作戦もある場面だったので、1人1人に対してしっかりいきました」と言えば、海野も「すごい球でしたよ。マツさんが投げ切ってくれました」と汗を拭った。7回の攻防が、この一戦においてどれほど重要だったのか。お互いに意思を共有していたからこそ、熱いガッツポーズが生まれた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)