
「強化月間」を終えて…5月7日以降は無失点を継続
人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。6月も前田悠伍投手にインタビューを実施しました。前編のテーマは「1軍とのリアルな距離感」について。5月7日以降、2軍戦で無失点を継続している左腕。本人の言葉から浮かび上がった現在の課題と、今後の方向性とは。昨年12月に自主トレをともにしたメッツ・千賀滉大投手からの助言も明かしてくれました。
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4回4失点と不本意な結果に終わった4月11日のウエスタン・オリックス戦(京セラ)。この登板を最後に、左腕は「強化月間」に突入した。春季キャンプから1000球に迫る投げ込みを重ねてきた体には、知らず知らずの間に疲労がたまっていた。改めてフィジカル面と向き合うことが大きな目的だった。5月7日の広島戦(タマスタ筑後)で復帰すると、以降は6月17日のオリックス戦(タマスタ筑後)までの5登板で24回2/3を投げて無失点。ひたすら“ゼロ”を並べるという最大のアピールを続けている。
今季、2軍ではここまで9試合に登板して4勝2敗、防御率1.35。自身が残す数字には、ルーキーイヤーよりも凄みが増している。強化月間を経て「ファウルを取れる確率が高くなった。それが一番大きいです。数値的にも伸びていますし、真っすぐが大事だなというのは改めて思った1か月でした」と振り返る。自己最速を1キロ更新する149キロも計測したが「球速は出しにいこうとすると、出ないんです。バランスよく投げていれば自然と出てくるはず」。19歳ながらも、しっかりと足元を見つめる頼もしさがある。
先発ローテ枠の問題があるものの、1軍昇格を望む声も聞こえるようになってきた。昨シーズンは1試合に登板して3回6失点。明らかに成長した姿を見せ続ける今、1軍とのリアルな距離感をどのように感じているのか。「うーん……。5月になる前に比べたら、近づいているとは思いますけど」。己の現在地を、赤裸々に語った。
「まだまだ変化球が高く浮いて打たれたり、真っすぐを狙われて、いいヒットになることがあった。常に『いける』『抑える』っていう気持ちは持っているんですけど、その中でもまだまだミスが多いので、突き詰めていくものもある。このまま上がっても多少は抑えられるかもしれないですけど、ここから先、全て抑えられるわけでは絶対にない。“ずっと”抑えられるために、まだまだっていう気持ちは持ってやっています」
1軍昇格のさらに先へ…首脳陣が明かした前田悠への願い
倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も「次に上がってきた時は、もうずっと(ローテーションを)回れるくらいのものは求めたい。あまり中途半端な状態では考えてないです」と話していた。谷間を埋めさせるのではなく、実力で枠を掴んでほしいというのが首脳陣の願いだ。前田悠も自身の立場は理解しつつ「どんどん上がっていける、追い求めているこの時間が楽しいんです。そこへのやりがいは、めちゃくちゃ感じています」と、1軍昇格よりも“遥か先”を見据えて日々を過ごしている。
1日の練習は、朝のウエートトレーニングから始まる。食事面でも「常にお腹が空かないように」、間食を摂りながら体重は4キロ増加した。解剖学にも着目するなど、より効率的なフォームを追い求めているところだ。「体の強化もするんですけど、もちろんピッチングの技術練習もします。色々と動画を見たり、トレーナーさんとかにもお話を聞きながらやってきた結果、球速に少しずつ結びついてきた」と手ごたえを口にした。
一方で「考えさせられました」という出来事もあった。6月7日のウエスタン・阪神戦(タマスタ筑後)では5回無失点に抑えたものの、セットポジションでの球速は140キロ前後にまで落ちた。この時は久々に中6日で迎えた登板。1週間前の張りが下半身に残っていたことで、「可動域も狭くてバランスが崩れてしまった。トレーニングも大切ですけど、野球で使える体にしないといけない」と痛感させられた。そこで思い出したのが、千賀の言葉だった。
マウンドで感じた下半身の張り…思い出した千賀の助言
「千賀さんもおっしゃっていたんですけど。どれだけ大きい筋肉がついても、そこで投げていたら、そんなに持たないというか。何年間かは活躍できても、筋肉には限界がある。すぐに落ちていってしまうから、みたいな話をされていた。ウエートはするんですけど“骨”っていうのを意識して投げた方が効率もいいし、疲労も少ない。そういう部分は毎日考えながらやってますね」
プロ野球選手につきまとう“勤続疲労”。「数年」ではなく、もっと長く活躍するために、理想的なフォームを手に入れようと努力しているところだ。今年1月には高知でカブス・今永昇太投手とも自主トレを行った。「自分の体はどこまでも知っておかないといけないです。それは千賀さん、今永さんとも話をして思えたこと。2人との出会いも本当によかったというか、ありがたかったです」と頭を下げる。
ウエートトレーニングに妥協なき食事、技術練習に知識の習得……。19歳の左腕は「頭いっぱいです」と苦笑いするが、「ノートにまとめたりもしながら。一気には覚えられないので、毎日勉強してコツコツとやっていけたらいいです」と再び足元を見つめた。そんな日々が「楽しいんです」と口にする非凡な19歳、前田悠伍に期待したくなる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)