瞬時にタッチを避けるコツ V打の裏で大慌て「やばい」…石塚本人がリアル解説

タッチを交わす石塚綜一郎【写真:栗木一考】
タッチを交わす石塚綜一郎【写真:栗木一考】

20日の阪神戦で決勝打…慌てて二塁に戻ったシーン

 右手と見せかけて、左手でベースをかろうじて触った。センスが垣間見えるシーンだった。「走塁が得意とかではないですけど、ああいう小賢しいことはできます」。延長戦の末、白星をつかんだ20日の阪神戦(甲子園)で、決勝打を放ったのは石塚綜一郎捕手。1打席でチームを勝利に導き、ヒーローインタビューにも選ばれた。

 同点のまま試合は終盤へ向かった。9回で決着はつかず、延長10回2死三塁で出番は訪れた。左腕・及川に対して、初球を振り抜く。打球は右中間を抜けていき、セ・リーグ首位を走る阪神とのカード初戦を制した。小久保裕紀監督も「石塚がよく打った」と試合後の会見で大興奮するなど、値千金の一打だった。

 バットだけでなく、石塚の走塁にも注目が集まった。一気に三塁を狙おうとしたが、中継プレーを経てすでにボールは内野陣にまで返ってきていた。慌てて二塁に戻ろうとしたが、完全にアウトのタイミングだった。万事休すの状態で頭から滑り込むと、とっさにタッチをかわして間一髪セーフ。アウトになっていれば痛いシーンだったが、野球センスが感じられたシーンでもあった。どんな極意が隠されていたのか、石塚本人が解説した。

「あのプレーはけっこう2軍や3軍でもやっていたことなんです。足は遅いですけど、そういうのが得意なんじゃないかと。右手と見せかけて、左手でいくっていう」。みずほPayPayドームの試合前練習では必ず短距離ダッシュのタイム計測が行われる。柳田悠岐外野手が「石塚には負けたくない」と言い切るなど、周囲も本人も“鈍足”を自覚していたが……。思わぬ形で自分を助けた。

 実はファーム時代にも経験があったというプレーが、1軍の舞台でも生きた。「振り返って『やばい』と思いました。もう完全にアウトのタイミングだったので、もうそれをやるしかないと」。カバーに入っていたのは一塁手の大山だった。頭から滑り込みながらも、タッチにきたミットはしっかりと視界に捉えていたといい「もちろんです。だいたいベースに置きにくるじゃないですか。右手を伸ばすのがベースまでは最短なので、だからこそ左手でいくんです」と高い技術が隠されていた。

「2軍、3軍でもちょこちょこトライはしていました。何年前だったか、その時も成功しました。2軍はリクエストがないじゃないですか。ちゃんとセーフって言ってもらわないといけないんですけど、審判の方が見てくれていて嬉しかったです。アウトになったこともあるんですけどね」

ヒーローインタビューに選ばれた石塚綜一郎【写真:栗木一考】
ヒーローインタビューに選ばれた石塚綜一郎【写真:栗木一考】

アマチュア時代にも“ルーツ”があった

 秋田県秋田市出身で、岩手の黒沢尻工高を経て2019年育成ドラフト1位でホークスに入団した。東北で生まれ育ったアマチュア時代。積雪でグラウンドが使えず、体育館を使用することもあった。「そういうスライディングの練習はしていました。左手と見せかけて右手、だとか。寮生活だったので朝から体育館を使ったりすることもありました」。高校時代には届かなかった甲子園という舞台で、積み重ねてきたものが発揮された。

 プロの世界で6年目を迎え、1軍では通算13安打。三塁打はゼロで、2軍でも2022年に記録した1本だけだ。小久保監督が「石塚の足で三塁打なんかあるわけないのに。あれも若さですね、初々しい」と言えば、24歳の若鷹も「ライトの佐藤(輝明)さんの肩がめちゃくちゃ強かったです。セカンドで止まろうとしたらもう目の前にボールがあったので、危なかった……」と苦笑いで頭をかいた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)