捕逸に“悪夢”も…なぜ6球連続でフォーク? 杉山&海野が口にした“全く同じ言葉”

ガッツポーズする海野隆司【写真:栗木一考】
ガッツポーズする海野隆司【写真:栗木一考】

9回2死三塁で森下との対戦…バッテリーは6球連続フォーク

 1点を取られたらサヨナラ負けという場面で、バッテリーが選択したのは6球連続フォークだった。しびれる延長戦を制した試合後、口にしたのは“全く同じ言葉”だ。2-1で勝利を収めた20日の阪神戦(甲子園)、9回に登板した杉山一樹投手が2勝目を手に入れた。

 先発はリバン・モイネロ投手。阪神・村上との白熱した投げ合いが続き、試合は1-1のまま終盤に突入した。杉山は9回にマウンドへ。1死から内野安打と犠打で2死二塁とされ、打席に森下を迎えた。2球目がパスボールとなり三進を許すが、バッテリーは揺るがない。最後までフォークを連投し、見逃し三振に仕留めた。マスクをかぶっていたのは海野隆司捕手。シンクロしたような2人のガッツポーズが、この場面の重要性を物語っていた。

 試合後、先に駐車場へ姿を見せたのは海野だった。脳裏をよぎったのは、何度も味わった“悪夢”――。森下との対戦で心がけていたことを明かした。

「最終回で、サヨナラもあり得たので。ランナーを満塁にしてでもゼロで抑えないといけない場面だった。それは杉山にも伝えていました」

 一塁と二塁は空いている状況。森下を歩かせて佐藤輝、大山と勝負することも選択肢には入れながらサインを出していた。「後ろのバッターに回してでも……。それくらい考えていました」と汗を拭う。当然、バッテリーミスの可能性もつきまとうが「覚悟がいりましたね。(パスボールの後でもあったので)めちゃくちゃ怖かったんですけど、腹を括ってやるしかなかったです」。チームの勝利につながったのだから、最高の選択だった。

ガッツポーズする杉山一樹【写真:栗木一考】
ガッツポーズする杉山一樹【写真:栗木一考】

2球目にパスボール…杉山から海野に伝えた言葉

 あらゆる可能性とリスクを頭に入れる捕手というポジション。海野は「ああいう場面でやられたことは何回もあったので。それこそヤクルトの時だって、あれでやられたので」という。口にしたのは、今月6日のヤクルト戦(神宮)。2点リードの9回にロベルト・オスナ投手が同点2ランを許すと、延長10回には松本裕樹投手がサヨナラ弾を浴びた。マスクをかぶって経験した悔しさは、もう絶対に味わいたくない。「だから“欲”を出さず、とにかくゼロで戻ることだけでした」。

 杉山の目線からも、森下との対戦を振り返ってもらった。初球は142キロのフォーク。ワンバウンドになったものの、バットは空を切った。2球目はパスボールとなり、カバーに走った右腕はホームベース付近で海野に声をかけた。「腹は括った。だからフォークでも大丈夫」。マスクを被る“相棒”への信頼を、はっきりと言葉にしたのだ。

2球目にパスボールをしてしまう海野隆司【写真:栗木一考】
2球目にパスボールをしてしまう海野隆司【写真:栗木一考】

 3球目、4球目も膝下からボールになるフォーク。5球目も同じコースで空振りさせてフルカウントとなった。「あそこはフォアボールOKの場面じゃないですか。最後もフォークか、高めの真っすぐしかないかなという話はしていました」。歩かせてもいいという考えは、海野とも共有できていた。ラストボールはストライクゾーンへ。「こうなる(体を引かせるような)ボールはあまり運ばれるイメージはしなかったですね」。まさに会心の一球で見逃し三振を奪った。

かつては制球難に苦しんだが…フォークを連投した理由

 1球目から5球目まで、寸分違わぬほど低めのコースに投げ込んだ。かつて制球力に苦しんだ杉山の姿は、もうどこにもない。「腹を括っていただけですけどね」と照れ笑いするが、成長が目に見えたシーンだった。「(1死からの)近本さんの内野安打も僕がベースに入っていたらアウトになっていたかもしれない。野手の足を引っ張っていたので。海野のパスボールも僕が抑えたら帳消しじゃないですか」。今の背番号40は自分のためだけではなく、チームの思いも背負ってマウンドに立っている。

 海野が「何回もやられてきた。とにかくゼロでいけてよかったです」と口にすれば、杉山も「海野を信用するだけでした」と頷いた。2人に共通していたのは“腹を括る”という強い覚悟。バッテリーで奪ってみせた値千金のワンアウトだった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)