高卒3年目…今年2月に筑後で伝えられた言葉
「1億を稼ぎたかったら……」。大先輩から授かった金言を胸に、若鷹が走り続けている。高卒3年目のシーズンを送る育成の佐々木明都投手だ。「憧れです」と背中を追うのは、今年から球団統括本部付アドバイザーに就任し、自主トレも共にした和田毅氏だ。
学法福島高から2022年育成ドラフト6位でプロ入りを果たした右腕は、1年目の2023年10月に右肘関節内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)を受けた。およそ1年半という長いリハビリを乗り越えて、今年5月に実戦復帰。「感覚を取り戻すというか、もはやあまり覚えていないんです。まだ全然マウンドに慣れなくて、荒れちゃいます」と制球に苦しんではいるが、着実に一歩ずつ前進している。
そんな佐々木にとって大きな転機となったのが、リハビリ組で過ごしていた今年2月の出来事だ。ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で、和田氏から直接、練習法を伝授された。
「1億を稼ぎたかったら、ポール間を走れよ」
アマチュア時代から膨大な練習量をこなしてきた和田氏らしい、シンプルで力強い助言だった。「ピッチングを見てもらった後にアドバイスをもらおうと思っていたら、その時に『稼ぎたいなら、毎日スピードは遅くてもいいからポール間を走れ』と言われました」と佐々木は振り返る。トレーニングが多様化する現代において、改めてランニングの重要性を教えられた。
以来、佐々木はこのポール間走を欠かさず続けている。「和田さんには『最初は騙されたと思ってやってみて』と言われました。今も騙されたと思いながら続けています」と笑うが、その効果は着実に体に表れている。5月下旬の3軍韓国遠征中、1週間走れない期間があった。「走っている時と比べて、明らかに体が重かったんです。でも、帰国して走るのを再開したら、体の軽さが戻ってきました」。継続することで、わずかな身体の変化にも敏感になり、コンディションを測るバロメーターになっている。
育成右腕と和田氏…昨年8月に生まれた意外な繋がり
2人の交流は、昨年8月にさかのぼる。和田氏が筑後の若鷹寮で主催したバーベキューに佐々木も参加。その際に、自らツーショット写真をお願いした。「さすがに嬉しすぎて、家族にも送りました」と照れ笑いするその写真は、今でも大切な1枚だ。
プロ入りから2軍登板の経験すらない。それでも憧れの存在である和田氏に近づきたい一心で、昨年11月の現役引退発表後に「自主トレをお願いするなら今回しかない」と頭を下げにいった。「おう、いいよいいよ」と快諾を得て、すぐにLINEを交換。リハビリ管轄だったため、トレーナーにも許可を得て、長崎での自主トレ参加が実現した。
「自分からはなかなか言えなかったりもしたんですけど、アドバイスをもらいながら『こう思うんですけど』という話もしました。僕が気にしていることは和田さんに見抜かれていて。すごいなと思いました」
同僚にも響いた金言…「和田さんカッコいい」
和田氏の言葉は、佐々木を通じて同僚にも伝わっている。今年3月に左肘のトミー・ジョン手術を受けたばかりの長谷川威展投手もその1人だ。「『1億稼ぎたかったら』という話を聞いて、和田さん、めちゃくちゃカッコいいなと」。長谷川は佐々木から話を聞くと、「俺も稼ぎたいから走る!」と即座にメニューに取り入れた。今できるトレーニングを探していた時だったからこそ、その言葉が真っすぐに刺さった。
助言した和田氏、受けた佐々木、そして続いた長谷川は、いずれもトミー・ジョン手術の経験者だ。憧れの存在に近づくために、シューズの紐を結び、きょうもまた走り出す。
(竹村岳 / Gaku Takemura)