ブルペンから衝撃の証言「脳を操作して…」 9失点から一転、上沢直之に見えた凄み

自己ワースト9失点→中12日で完投勝利

 人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。上沢直之投手の第5回テーマは「変化球」。7日のヤクルト戦(神宮)で移籍後初完投し、14日のDeNA戦(みずほPayPayドーム)では、7回無失点で5勝目。好投を続けている右腕ですが、5月25日のオリックス戦(鹿児島)では、自己ワーストタイの9失点を喫していました。中12日で何が変わったのか――。そのヒントは変化球にありました。

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 長いシーズンの戦い方を理解していた。「かなり打たれましたけど、何が良くなかったかを整理して、次に向かえば大丈夫かなって」。その言葉通り、見事な修正力で、移籍後初、チームとしても今季初の完投勝利を収めた。

 5月25日のオリックス戦。初回に西川に先制2ランを許すと、3回までに6点を失った。その後も、安打を浴び続け、5回には杉本に3ラン。9失点でノックアウトされた。フォークをコントロールすることができず、真っすぐとカーブに頼るしかなかった。この日の与四死球は1。制球は健在だったが、球種の選択がうまくいかなかった。

「どうしても苦しくなって2択になってしまった。それで抑えられるようなピッチャーでもない。勝負球が1つでも2つでも多い方が絶対抑えやすいし、抑える確率も上がると思う」

 上沢自身も「かなり打たれた」と語るように9失点は自己ワーストタイだった。その後、降雨中止もあり、次戦登板まで中12日空いた。ただ、気持ちの浮き沈みはなかった。意識しているのは、“同じような日々”を過ごすことだった。

「勝った時も負けた時も、そんなに変えないのがいいですかね。“勝ったから別に”って。(次戦までの)1週間をいい気持ちで過ごすとかではなくて。やられてもよくても、普通にしていれば、そもそも切り替える必要がないので」

 若い頃から常に一定のメンタルを保てていたわけではない。ただ、日ハムではエースとして活躍し、海を渡った米国では厳しいマイナー生活も経験した。浮き沈みを経験したからこそ、「次の試合はやっぱり来るので、それに向けてどうしていくかを考えた方がいいかな」。中12日でフォークを修正。完投勝利に繋げた。

ブルペン捕手からの証言「頭だけカットだと思って…」

 上沢を語る上で欠かせないのが多彩な変化球。今季も2種類のカーブに加え、カットボール、スライダー、チェンジアップ、ツーシーム等、様々な球種を駆使して打者を翻弄する。変化球に対する考え方も独特。以前、ブルペン捕手の1人がこんな証言をしていた。

「上沢さんのカットボールって“ブワァー”って吹いてくるようなイメージなんですけど。『どうやって握っているんですか?』って聞いたら『直球と同じ握り方、投げ方』って言われたんです。頭だけカットボールだと思って投げるらしいです。脳を操作して変化球って投げるんだって衝撃を受けました」

 上沢自身に聞くと「若干変えている意識はある」としながらも「概ねそうですね」と認める。頭の中で意識することで、微かに体の動きが変わる――。カットボールやツーシームなど、小さな変化が求められる現代の野球で、「曲げすぎない」意識で辿り着いた“境地”だった。

「それが他の人に当てはまるかはわからないですけど。同じ真っすぐ投げるにしてもちょっとスライド回転を意識するのと、何も意識しないで投げるのだと絶対球質が変わると思う。ある程度、頭で意識している部分で小さい変化を作り出せるようなイメージが僕の中ではある」。もちろん、感覚と実際の変化を擦り合わせることは重要。試合前以外は常にブルペンに高性能弾道測定器「トラックマン」で変化球の軸、軌道、回転を調べている。

 14日のDeNA戦(みずほPayPayドーム)でも7回無失点の好投で5勝目。試合後、「色々な球種を使いながら抑えたのが良かったですし、追い込んでから色々な選択をする余裕が自分の中であった」と語っていた。気持ちは変えず、新たな挑戦を止めない。上沢のブレない姿勢が、勝利をもたらす投球につながっている。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)