ベテラン右腕が語る重要性「走れなくなったら…」
現代において、プロの投手はどれほどのランニングを行うのか。科学の視点が取り入れられるようになり、合理化が重要視されるようにもなってきた。数値を追いかけるのは当然の時代だ。投手は走ることが基本とされていた時代もある中で、東浜巨投手、上沢直之投手、ロベルト・オスナ投手がその疑問に独自の視点と経験と踏まえて回答した。
シーズン中であれば、ガンガンと走り込むということはしない。あくまでも、パフォーマンスを発揮するのはマウンドの上。それでも東浜は「僕はランニングは必要だと思いますね」と話す。
「持久力というよりも、ランニングでも筋トレ的な効果があると思いますよ。例えば10メートルダッシュにしても、何十本もやるとか、インターバルを取るとか。あとは筋持久力的なことじゃないですか。僕は怪我予防の意味合いが大きいかなと思います。走って、筋肉を使って、エネルギーを消費すること。それだけだと出力が出てこないので、そこをトレーニングで補って、筋肥大して神経系を刺激したり。瞬発力を上げたり、そういう意味合いだと思います」
ベテラン右腕なりの考えと経験を述べつつ、こう続ける。「年齢を重ねるにつれて股関節とかが動かなくなるイメージがある。そこを意識しながらランニングすることは重要だし、必要だと思います」。パフォーマンスを維持し続けるためにも、ランニングひとつにしても意識を向けるポイントがあるという。
「トレーニングももちろんやっています。でもそれだけじゃできないこともあると思うので。走れなくなったらやっぱり膝からきたりするじゃないですか。だから走るようにしています」
沖縄尚学高時代には暑さに慣れるため、夏場でも厚着をして練習を行なっていたという。「沖縄と甲子園で暑さが違うじゃないですか。甲子園は熱気があって、沖縄はカラッとしている感じ。そういう意味で対策したことはありました」と、さまざまな手法を用いて心身を鍛え上げてきた。
上沢が追ってきた背中「僕が見ている限り」
上沢も東浜と同様に「僕も必要だと思います」と頷く。専大松戸高時代は、「けっこう走っていましたよ。他の高校と比べたらわからないですけど、僕の中ではキツかったですね。『ピッチャーはランニングしとけ』って言われていました」と振り返った。「走ると体幹が鍛えられるんですよね。疲れているとお尻にもきますし」と、ランニングもトレーニングのひとつであるとの考えを示す。
「僕たちは1年間を通してコンディションを整えないといけないので、昔みたいには走れないですけど」としながらも「精神を鍛えるという意味でも、すごく重要です。基本的なことは、アマチュアの方々と変わらないと思いますよ」と続ける。高校時代、ウエートトレーニングの経験がなかったという右腕は今季がプロ14年目だ。走ることが、その野球人生を支えている。
「最近の選手は必要ない、そこまで走らなくてもいいんじゃないですかって選手は多いと思います。いろんな要素があります。精神的なこと、体力的なこと。でも僕が見ている限り、長くやっている人は走れていますね。宮西尚生さんもそうだし、金子千尋さんも走れていましたから」。どちらの意見も尊重するが、投手として長年チームを引っ張る選手の背中を追ってきた。
2024年シーズン、上沢は米国で過ごした。外国人選手の印象はこうだ。「走る量でいえば、やっぱり少ないなって思いましたよ。彼らは彼らなりにトレーニングで育ってきているし、人それぞれ”合う合わない”があると思う。いろんな考え方があっていいのかなと思います」。もちろん、練習量が少ないわけではない。取捨選択する中で、積極的にランニングを取り入れる選手は少ない印象があるという。
オスナは一石「大事なことは早い球を投げること」
メジャーリーグでの経験が豊富なオスナも「(メジャーリーガーは)そんなに走らないですね。なぜかというと速い球を投げること、ホームランを打つことが求められる。それには筋肉の方が大事」と明確な理由を添える。メキシコで生まれ育った右腕。母国のスタイルは「どちらかというと、日本の野球に近いです。そんなにパワーがないから、走ることやテクニックを上げることが重要になる。若い時はそういう練習をしていました」と明かした。
大切なのは明確な意思と目的を持つこと。「いい球を投げるには下半身の力は大切だし、自分もそうやって教わってきました」と重要性を説く。トレーニングにも近代化が進む中でも、ランニングを行うことでしか得られないものがある――。叶えたい目標に向かって、選手たちは走り続ける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)