驚異の出塁…ホークス打線は「近藤が2人いる」
柳町達外野手の“覚醒”は、今季のホークス最大の「嬉しいサプライズ」と言っていいだろう。主力の離脱が相次ぐ中で外野の定位置をつかみ取り、凄まじい打力を発揮している。打率.362、OPS.956はいずれもパ・リーグの規定打席到達者の中で断トツ。これまでも安打を重ねる力には定評があったが、今季は6月にして早くも自己最多にあと1本と迫る3本塁打を記録するなど、長打力にも磨きがかかっている。(成績は6月10日時点)
ただ、今季の柳町が特に優れているのは長打力よりも出塁能力だ。現在の出塁率は.466。ほぼ2打席に1回の割合で塁に出ている。もしこのままシーズンを完走すればNPB歴代でも10位に相当する数値となり、まさに歴史的なペースだ。これほどの出塁率を支えているのはもちろん.362という高打率だが、それだけではない。打席あたりに占める四球の割合を示す「四球%」は15.6%で、こちらもリーグの規定打席到達者の中でトップ。つまり、柳町は安打と四球の両面でリーグトップの出塁能力を発揮しているのだ。

ところで安打も四球も多いという打撃成績、どこかで見覚えはないだろうか。例年3割を上回る高打率に加え、非常に多くの四球を選ぶ球界屈指のヒットメーカー、近藤健介外野手に今季の柳町の姿はそっくりなのだ。開幕直後に戦線離脱した背番号3が復帰した今、ホークスの打線は「近藤が2人並んでいる」ような状態となっている。
では、柳町はいかにして「近藤2世」へと成長したのだろうか。調べたところ、投球コース別のスイング率(スイング÷投球)にそのヒントがありそうだ。
以下の図は柳町のスイング率を投球コース別に示したヒートマップだ。図は投手目線で打者を見た際の視点で描かれており、左側は2024年、右側は2025年の値を示している。

歴史的出塁率…柳町が“振らなくなった場所”
2024年と2025年、2つの図を見比べたときに大きな違いが見えるのが低めのボール球への反応だ。2024年のデータを見ると、低めのボールゾーンがかなり赤くなっている。昨季の柳町が低めのボール球をかなりスイングしていたことがわかる。最もスイングしていなかったコースでも30%弱、コースによっては58.8%にも達している。つまり、コースによっては低めのボール球を半分以上もスイングしていたことになる。
同じコース帯に注目して2025年の図を見てみると、よくスイングしているコースでも30%前後。図中の右端にあたる外角低めのコースに至っては、わずか4.1%のスイング率(2024年は30.2%)と激減している。
低めに外れるボール球は、フォークやチェンジアップといった“落ちる球”であることが多い。いずれも投手が勝負どころで使う、いわば決め球だ。これまでの柳町は、そうした球にバットが出てしまい、空振り三振に終わる場面も少なくなかった。しかし今季は、そうした低めの決め球をしっかりと見極めて見送っている。つまり、これまでなら三振していた場面でボール球を見送り、時には四球をもぎ取れるようになったのだ。今季の柳町が四球を増やせたのには、こうした背景があるのではないだろうか。
また、低めだけではなく外角への対応にも変化が見られる。改めて図を見てみよう。2024年の柳町は、右端の外角真ん中から低めにかけてのボールゾーンで、それぞれ25.6%、31.7%、30.2%というスイング率を記録していた。つまり、当該コースへのボール球に対しておおよそ3球に1球の割合で手を出していたことになる。
打率.224→.438…相当厄介な打者に“変身”
これらのコースへの投球は、左投手が左打者と対戦するうえでの“生命線”でもある。外角いっぱいを突くストレートや、外角のボールゾーンに逃げていくスライダーやカーブといった変化球は、左打者を相手に三振や凡打に打ち取るための有効な武器となる。柳町はこれまで、左投手が先発の試合でスタメンを外れることも少なくなかった。その理由には、外角への投球を見極めるのが苦手だったことも影響していたかもしれない。
一方で、今季の柳町はこの点も劇的に改善している。2025年の同じコースを見ると、スイング率はわずか4.9%、12.1%、4.1%。1桁台の数字も多く、コースによっては限りなくゼロに近い。昨季は30%近く手を出していた外角のボール球を、今季はほとんど見逃せているのだ。投手の生命線とも言えるコースへの投球をことごとく見逃す柳町は、サウスポーにとって相当厄介な打者に“変身”したと言えるのではないか。
実際の成績にもこの見極めの効果は如実に表れている。柳町は昨季まで左投手を苦手としており、対戦打率は2割をわずかに超える程度だった。それが今季は打率.438と圧倒的な数字を残している。サンプルがまだ小さいとはいえ、凄まじい成績だ。

対左投手の面で成長しているのは打率だけではない。打席に占める三振の割合を示す三振%は、昨季の30.3%から今季は19.0%に。四球%も6.6%から15.5%まで改善している。単に安打を増やしただけでなく、ボールをしっかり見極めて四球を選べるようになったことがわかる。
結果として昨季まで対左投手時のOPSは5割台だったが、今季はなんと1.097。見極めの向上により、かつて苦手としていた左投手を相手にしても極めて高い打力を発揮している。今の柳町は先発投手が左、右に関係なく打線の中心に座れる、まさにチームの主力なのである。
低めや外角のボール球を的確に見極め、安打と四球を量産する現在の柳町は、まさに「近藤2世」と呼ぶにふさわしい存在だ。このままの調子を維持できればレギュラー定着はもちろん、MVP争いに絡んでくる可能性すらある。
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。