「誰が9回いくの?」…察知していた選手たち 杉山一樹登板の背景、ブルペンの“異変”

9回に登板した杉山一樹【写真:古川剛伊】
9回に登板した杉山一樹【写真:古川剛伊】

9回のマウンドには“背番号40”

 10日の巨人戦(みずほPayPayドーム)、3点リードで迎えた勝利目前の9回。セーブシチュエーションでマウンドに上がったのは、守護神のロベルト・オスナ投手ではなく杉山一樹投手だった。“大役”を任された背番号40は巨人打線を難なく3者凡退に打ち取る投球で、チームの勝利に貢献した。

 試合後、小久保裕紀監督は「前にオスナがやられた時(6日のヤクルト戦)、いったんクローザーを外れるという話はしました。今は決めていないです。きょうはたまたま杉山でしたけど」と説明。守護神を固定せず、流動的に起用していく方針を明かした。そんな事情があった中で、この日のブルペンでは何が起こり、なぜ杉山が9回を託されることになったのだろうか――。当事者たちがその緊迫の瞬間を明かす。

明らかだったオスナの起用法

■明らかだったオスナの起用法

「知らされたのはマツ(松本裕樹)さんが8回にいってからです。それまでは藤井(皓哉)さんと、『誰が9回いくの?』と話をしていました」

 こともなげに語ったのは杉山だ。9回の登板を告げられたのは、松本裕がマウンドに上がった直後のこと。それまで、ブルペンにいた誰もが、クローザーの“行方”を知らされていなかった。

「それぞれロングとか色々な役割はある程度あるんですけど、僕と藤井さんは全然負けパターン(での登板)もあるし、どこでも投げていたので。9回に投げるのはどっちかじゃないかとは思っていました」。杉山は登板を想定し、静かに準備を始めていた。

 唯一、明らかだったことがある。「オスナのブルペン入りが早くて、7回とかだったかな。いつもと違ったので」。オスナが9回に登板しないことだけは確信できていた。チームにとって大きな転換点ともいえる一戦となったが、この好投は杉山の経験と周到な準備があったからこそだ。

6日のヤクルト戦で同点弾を浴びたロベルト・オスナ【写真:古川剛伊】
6日のヤクルト戦で同点弾を浴びたロベルト・オスナ【写真:古川剛伊】

「今に始まったことじゃない」…浸透する首脳陣の考え

 ブルペンを預かる若田部健一投手コーチは、「これは今に始まったことじゃない」と語る。「シーズンが始まる前から、『誰がどこで行くかは分からないから、とにかくベンチからの指示があった時にちゃんと投げられるだけの準備をしましょう』とキャンプから伝えてきました。それは体だけじゃなくて、気持ちの面でも。今回もそれは変わらないということです」。

 絶対的守護神のオスナがいつもと違う動きを見せる中で、ブルペンの雰囲気はどうだったのか。「(オスナが9回を投げることは)変わるだろう、といった感じでした。なので全然変化とかはなくて、いつも通りでしたね」。そう証言するのは、同じくブルペンで待機していた木村光投手だ。特に驚く様子もなく、それぞれが出番に備えていた。

 事の始まりは6日のヤクルト戦(神宮)。オスナが2点リードの9回に痛恨の同点弾を浴びた。この出来事がチームに重い決断を迫った。この日、指揮官は球場を後にする際にこう呟いた。「明日は藤井がクローザーかもしれんから」。

 守護神を固定しない戦略が勝敗をどう左右するのかは分からない。ただ1つだけ言えることは、抑えを任せられるだけの力を持った投手が、何人もいるということだ。オスナが状態を上げて定位置に戻るのか、あるいは誰かがその座を奪うのか。小久保ホークスの新たなチャレンジとなる。

(飯田航平 / Kohei Iida)