振り返った1軍“初登板”…「投げる球以前の問題」
1軍で過ごした10日間を、決して無駄にはしない――。ドラフト6位ルーキーの岩崎峻典投手は5月17日にプロ初昇格を果たした。たった1度の登板で出場選手登録を抹消されたのが5月26日。わずかな時間ではあったが、「めちゃくちゃ勉強になりました」。今後の野球人生を戦い抜くためのヒントは、あらゆるところに散らばっていた。
履正社高、東洋大を経て入団した右腕は、2019年夏の甲子園で2年生ながら優勝投手となった実績を持つ。しかし、1軍初登板だった5月25日のオリックス戦(鹿児島)では1回4安打3失点。3連続タイムリーを浴びるなど、ほろ苦い経験に終わった。「自分の単なる実力不足かなと。それだけですね」。直後に2軍へ降格。今は筑後で課題と向き合っている。
短い1軍生活にはなったが、野球観を揺るがすような学びがあった。「先輩のピッチングを見て『うわ、この人すごいな』って思うじゃないですか。それとプラスアルファで……」。1軍で確固たる立場を築いている投手はなぜ、安定した成績を残すことができるのか――。その疑問を持つことで、自身に足りないものに気付くことができた。そして、降格を告げられた直後に先輩投手からかけられた言葉が、再び1軍を目指すためのエネルギーとなった。
知る由もなかった1軍ブルペンの“リアル”
「マツ(松本裕樹投手)さんとかすごかったです。もうずっとデータを見ているんですよ。『このバッターだと、どこに投げたら打たれないかな』みたいに。抑えている人ほど、そういう準備をちゃんとしているなと思いました。『この差があるわ!』って。投げる球以前の問題でした」
初昇格だった岩崎にとって、1軍ブルペンの様子は想像を超えていた。“力があれば抑えられる”と思ってやってきたが、痛感させられたのはデータを駆使することの重要性だった。相手打者を隅々まで観察し、試合中からシミュレーションを怠らない。マウンドに上がれば、頭に入れたデータを元に配球を考える。“自分ができることをやる”――。ルーキーにとって改めてプロの凄みを肌で感じた時間だった。
「これまでは自分のピッチングをしようと、自分の持ち味を出したらいいと思っていたけど、僕のこんなちっぽけなパワーで通用するわけがない……。アマチュア時代はポテンシャルを試合でぶつけるだけでした。それ以上に駆け引きが大事なのがプロ野球だと思うので。それを1軍の生活で痛感しましたね」。現実を思い知らされた右腕は、さらに続けた。
「仮に1イニングとか抑えられたとしても、多分“たまたま”だと思うんですよ。このまま自分のパワーを出し続けていっても、そのうち絶対に打たれていたと思うんです。抑えてる人ほど、そういうのをちゃんとしてるなって思いました」
味わったプロの厳しさ…「スタートは良くなかったけど」
初の1軍で感じたプロの厳しさ。一方で、大山凌投手ら先輩たちの温かさにも触れた。「ずっと可愛がってくれているので。よく食事とかにも連れていってもらったんですけど。『お前がおらんの寂しいから、すぐ来いよ』って言ってくれました」と降格を告げられた際に声をかけられたという。「なんか友達が1人いなくなるみたいな。そんな感覚やと思うんですよ、あの人らは(笑)」。冗談を交えながらも、その言葉に感謝する。
また、小笠原学2軍投手コーチからは、自身が初登板で満塁本塁打を打たれた経験を交えながら励まされた。「プロを教える立場の人でも、最初はそんな経験をしているんだと思うと、少し楽になりました。小笠原コーチもそこから何か考えて、自分なりに努力をしてやられたと思う。僕もスタートは良くなかったですけど、そこまで考えてやらないといけない」。前を向くきっかけをもらった上で、今後の強化ポイントも擦り合わせた。
「自分が打たれているコースもちゃんと見極めて。データを見てやってみようと取り組んでいる途中です」。新たなアプローチで課題克服に励む。1軍の舞台で味わった悔しさと、得た気付き。そして先輩たちの励ましを胸に、再び大観衆のマウンドを目指す。
(飯田航平 / Kohei Iida)