武田翔太、溢れかけた涙「もう1年経つのか…」 外し忘れた“相棒”、長い道のりの先に見えた光

4軍戦で復帰した武田翔太【写真:飯田航平】
4軍戦で復帰した武田翔太【写真:飯田航平】

1イニングを投げ無安打無失点の好投

 1年2か月という途方もない時間を、歯を食いしばって戦い続けた。マウンドから見る風景に自然と目は潤んだ。待ってくれている人がいる--。それだけで十分だった。ホークスの「背番号18」がマウンドに帰ってきた。

 7日に行われた北九州下関フェニックスとの4軍戦。武田翔太投手が復帰登板を果たした。6回から登板し、1イニングを無安打無失点。真っすぐは最速146キロをマークし、三振も1つ奪った。順調に復活への1歩目を踏み出した右腕は安堵の表情を浮かべた。

 長く苦しい日々を過ごしてきた。2024年はプロ13年目にして初の1軍登板なし。昨年4月には「右肘内側側副靭帯再建術および鏡視下肘関節形成術」、通称トミー・ジョン手術を受け、懸命なリハビリを続けてきた。

 表情には見せなかったが、久しぶりのマウンドからは緊張感が伝わってきた。この日は妻と愛息も下関まで応援にかけつけた。「見てくれていたと思います。涙が出そうになりました」。登板を終えた直後、右腕が心境を明かした。

感慨深く語った心境…「浮き沈みはありますが」

「『もう1年経つのか』と思いながら過ごしてきました。きつい時もたくさんありました。今でも状態の浮き沈みはありますが、まずはしっかりと投げられて良かったと思います」

 感慨深げに語った右腕は、場内の球速表示で146キロを計測した。持ち味の大きなカーブは1球だけだったが、危なげない投球で予定していた1回を無事に投げ終えた。いつも通りのひょうひょうとした表情を見せたが、投球前の“あるシーン”が右腕の緊張を物語っていた。

「外すのを忘れていました。『あ、つけてるわ』と思って、サポーターを取りました。(リハビリ中は)いつも投げる時に付けていたので。『大丈夫かな』と一瞬思いました」

 これまで肘のサポーターは“必需品”だった。術後から当たり前のように右肘にあった「相棒」。マウンドに上がると、くるりとホームに背を向け、少し恥ずかしそうにサポーターを外した。ほほえましく思えるその仕草こそ、いかにリハビリが過酷で苦しい道のりだったのかを伝えていた。ここまでたどり着くための思いが凝縮されたシーンだった。

家族に支えられたリハビリ…「笑わせてくれた」

 リハビリ期間を支えてくれたのは、どんな時も自分を信じてくれた愛する存在だった。「一番は家族です。手術して右腕が使えない時でも、いろいろと支えてくれました。子どもも毎日笑わせてくれて、笑顔を見せてくれたので。幸せだなと感じていました」。感謝の思いが尽きることはない。

 今後は3軍に帯同し、実戦を重ねていく予定だ。「少しずつイニングを伸ばして、早く1軍に戻れるようにしたいです。1年2か月、長い間待ってくださったファンの皆さん、そして支えてくれた皆さんに感謝しかありません。恩返しできるように頑張っていきます」。帰りを待ってくれた人たちのため、そして自分自身のために――。武田翔太が大きな一歩を踏み出した。

(飯田航平 / Kohei Iida)