若き斉藤和巳にあった“未熟さ” 「伝え続けないと…」 20勝の裏にあった7年の苦しみ

斉藤和巳3軍監督【写真:飯田航平】
斉藤和巳3軍監督【写真:飯田航平】

エースになる過程で得たこと

 羽ばたくために必要なことがある。3軍を率いる斉藤和巳監督が、若鷹たちに“気づき”の重要性を説いた。その言葉の裏には、自身が20勝投手、そして沢村賞投手へと登り詰める過程で掴んだ確信がある。「自分も少し遅かったから」と率直に語る指揮官が、育成現場の最前線で選手たちに伝えたいメッセージとは何か。

「これっていうものではなくて、自分がどうなりたいのか、どうしたいのかによって色々やることはあるわけで」。斉藤監督が求める“気づき”は、決して1つではない。それはプロ野球選手だけに当てはまるのではなく、社会に出ている人たちにも響くものがある。

 斉藤監督自身もそこに至るまでには時間を要したという。その“気づき”の具体的な中身とは――。そして若手選手たちへのアプローチとはどのようなものなのだろうか。自身の経験と重ね合わせながら、ゆっくりと口を開いた。

「言われてやるんじゃなく、自ら動く。自ら率先して何でも考えて、行動できるようにならんとあかん。小さなこともそうやし、大きなこともそう。全てを自分で考えられるようにならないと。いろんなことに気づく……。難しいよ。言葉で言うのも難しいけどね」

 高卒でプロ入りし、数年で戦力外通告を受ける選手も少なくない厳しい世界。限られた時間の中で、若鷹たちの気持ちを変えるものが“気づき”だ。1日でも早く行動に移させるためにも、首脳陣にも根気強さが必要であり「いろんな角度で、話はせなあかんのやろうから、いろんな言葉を使いながら」とアプローチを続けている。

「ただ、言ってることはずっと変わっていないから。中身は一貫して、自分の中ではこれが絶対大事や! というのはもう信じてやってる」。言葉の表現は変えども、その核となるメッセージは揺るがない。斉藤監督が自身の20代前半を振り返る。

自身の体験から語る“甘え”「結局足りてない」

「頑張ろうと思う気持ち、それはもちろんあったけど、結局色々足りてないことが多かった。楽したいとか、ちょっとした時に気持ちが抜けてしまうとか。しんどかったら、しんどいだけのパフォーマスしか表現できなかった」

 若き日の未熟さを隠すことなく語る姿は、選手たちへの真摯な想いの表れだろう。入団7年目を終えた時点では通算9勝。自身の中にあった“甘え”に気づくことができたからこそ、やがて20勝、そして沢村賞という大きな花を咲かせることができた。それでも、入団から8年もの月日を要した。今となっては「気づいたことに、自分の中では自信が持てた。今振り返った時にそう思うね。自分を褒めてやりたい瞬間ではある」と胸を張る。

 それは日々の積み重ねでもあり、もしかすると目の前に落ちていることなのかもしれない。「たぶんいっぱいあるんよね。もしかしたら毎日あるかもしれんし。だからそこに目が向けられるのか、そこにアンテナを張れているのかっていうことだけ。年齢を重ねることによって、いろんな行動がまた変わってくるよね。野球中心にもなってくるし」と、私生活も含めて意識が変わり、深まっていった過程を明かす。

一貫して伝え続けている言葉とは…

「今年は3、4軍には『考える力をつけろ』ということを言い続けてる。毎日試合があるけど、『俺らに調整はないよ。成長しかないんやから』って」。指揮官が伝えている「考える力」とは、グラウンド内だけに留まらない。私生活においても野球に結びつけるための行動ができるようになることを期待する。全部が野球の結果に繋がっている――。そこに早く気づいて欲しい。

「伝わっているかどうか分からんけど、伝え続けるしかないし、言い続けるしかない。そこは選手以上にこっちが根気を持っていないと無理やし、それが仕事だから」。選手たちに植え付けようと、日々言葉を紡ぐ。熱意と信念。未来のホークスを担う若鷹たちの心に、“行動を変える”ための種を蒔いている。

(飯田航平 / Kohei Iida)