本拠地での試合前…ビジョンに映る「今シーズンの目標」
驚異のレコードを作り上げた。マウンドで仁王立ちする姿は、かつて海を渡った大投手たちにも引けを取らなかった。6日のヤクルト戦(神宮)、先発のリバン・モイネロ投手が異次元のペースで「K」を積み上げていった。プロ野球新記録の樹立も予感させるほどの快投で、球団新記録の18奪三振をマーク。チームは痛恨のサヨナラ負けを喫したが、その投球が色あせることはなかった。
左腕がひそかに狙う“勲章”がある。本拠地みずほPayPayドームで試合前に行われるスタメン発表。大型ビジョンには選手それぞれが掲げる「今シーズンの目標」が映し出される。来日9年でリリーフとして、また先発としても圧倒的な成績を残してきたモイネロ。そんな男が目指す“高み”とは――。
「ピッチャー全員が獲りたいと思っているんじゃないですか? それ以上はない賞だと思うので、そこを目標にしています」
モイネロが掲げる目標は「沢村賞」だ。外国人選手が獲得したのは1964年のジーン・バッキー(阪神)と、2016年のクリス・ジョンソン(広島)の2人だけ。ハードルは高いが、不可能とは感じさせないパフォーマンスを今季は見せている。
タイトルに対するスタンスは人それぞれだ。「後からついてくる」という選手もいれば、山川穂高内野手のように「そこに価値がある」とはっきり言葉にするプレーヤーもいる。「あくまでも、自分がいいピッチングをすればついてくるもの。どうしてもそれを獲りたいというものではないんですけどね」。モイネロは淡々と自らのスタンスを語る。
「獲れるか獲れないかは今はわからないですけどね。いいピッチングを続けることです。最後にそんな賞があればいいし、目標にしながら今戦っているところです」。左腕が大事にするのは、目の前の一戦に集中すること。チームの勝利が最優先ではあるが、「沢村賞」の存在がモチベーションの1つになっていることは間違いない。
倉野コーチが「進化」を感じる点は
2020年には最優秀中継ぎを受賞し、先発に転向した昨シーズンは防御率1.88で最優秀防御率を獲得した。今季もここまで10試合に登板して5勝0敗、防御率1.30。69回1/3を投げ76三振を奪っている。「『こうすればいいんだ、こうすればもっと上に行けるんだ』っていうルーティンがしっかりしている。全ての球種で質が上がっているので、パフォーマンスにもつながっている」。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は揺るがない信頼を口にする。
この日は8回117球で降板。日本記録の19奪三振まであと1個に迫っていたが、「それは知らなかったですし、いつか、誰かがレコードは破ると思う」と冷静に振り返った。3週連続で6連戦が組まれている交流戦。「120球も近かったですし、自分の記録うんぬんのために投げるよりも、シーズン中ずっと健康で、長く投げることが大事なので。あのタイミングで降りる決断をしました」と語った。
西武・今井らライバルは多いはずだが「ゴールはタイトルだけではない。チームの優勝が一番。その中で、個人としての目標の1つが沢村賞です」と足元を見つめる。神宮で打ち立てたニューレコード。まさに“最高”という言葉がふさわしい。そんなピッチングだった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)