苦境脱する決勝弾「今やっていることができた」
「嬉しかったです」。久しぶりの感触に笑みが溢れた。4日の中日戦(みずほPayPayドーム)で決勝点を叩き出したのが、栗原陵矢内野手だ。「打球としては今までも同じようなものはあったかもしれないですけど、結構スイング的にはいいスイングというか。今やっていることができたスイングだったかなと思います」。5月7日の西武戦(ベルーナドーム)以来、実に23試合ぶりのアーチ。苦しんできた日々に光が差す一発となった。
5月は打率.132、1本塁打、4打点と不振にあえいだ。しかし、小久保裕紀監督はその姿勢を評価した。「いつも人一倍、練習から声を出しているし、準備している姿を見ている。投げやりになるような、そういう姿はないですね。そういうところを(首脳陣は)見ています」。腐ることなく、1つ1つの打席に向き合ってきた姿が、復調への道を切り開いた。
そんな栗原の一発に頬を緩ませたのが周東佑京内野手だ。「考え、悩みながらというところで、ずっとやることはやっていた」と、必死な姿を間近で見てきた。結果を出すための姿勢だけでなく、振る舞いにも確かな変化を感じていたという。昨季、不振に陥っていた時とは明らかな違いを感じ取っていた。不振だった背番号24に伝えた“一言”。そして、本塁打を放った後に放った言葉とは――。そこには2人の関係性が表れていた。
周東が語る栗原の変化…昨季との違い
「今年は全然イジれるんで大丈夫です。『そろそろ打てよ!』って」
周東が話したのは、昨季との明確な違いだった。2024年シーズンも春先から苦しみ、3月&4月は打率.213と周囲が話しかけることさえできない雰囲気だった。「『お前、腫れ物扱いやぞ。周りからしたら』みたいな話はしました」と、選手会長の目線からもデリケートな時期があったことを明かしていた。今の栗原には気兼ねなく、冗談混じりの言葉を投げかけられる雰囲気があるという。
「そういう(投げやりになるような)部分を見せないのはやっぱり彼の良さだと思います。だからレギュラーとしてサードでずっと出られている選手。クリがそういう姿勢を見せないことで『もっとやらなきゃいけない』という気持ちに自分自身もなります。それはチームにとってもいいことだと思います」
栗原が苦しんでいたことは誰の目からも明らか。それでもチームメートに心配をかけまいとする姿に感じるものがあった。「去年僕がそういう状況になった時に、投げやりまで行かないですけど、そういう部分も少し見えていたとこもあるのかなとも思うんで。僕は立場上、見せないといけない。僕がいつまでもグジグジ言ってるわけにもいかないんで」と自らを省みる。だからこそ、苦境でも明るく振る舞う栗原の姿がより胸を打つ。
周東流の祝福「俺のホームランの方が…」
栗原も新たな打ち方を試すなど、もがき続けていた。「野球人生において、振ったことのない振り方を今している感じです。素振りをしていても気持ち悪い感じは残っていますけど、スイング的にはいいスイングというか、今やっていることができたスイングだったかなと思います」。助言をくれる近藤健介外野手をはじめ、周囲の支えにも感謝する。必死に前を向き、感覚を掴もうとしている最中だ。
背番号24に待望の一発が飛び出した後、周東はこんな“一言”を伝えていた。「『俺のホームランの方が打球スピード速かったぞ』って言っておきました(笑)」。5月27日の日本ハム戦で自身が放った1号ソロとの比較。少し辛口な言葉で祝福できるのも、栗原が明るくいてくれるからだ。この一打をきっかけに、栗原が本来の輝きを取り戻すことを、誰もが願っている。
(飯田航平 / Kohei Iida)