2回無死満塁で中犠飛「あそこは狙いました」
美学と現実の間に、ジレンマを抱いていた。「全打席ホームランを狙う」。その言葉の裏側に迫った。ソフトバンクは3日、中日戦(みずほPayPayドーム)に4-0で勝利した。7回無失点で3勝目を挙げた有原航平投手、3安打5出塁の周東佑京内野手らが貢献した中、決勝点を生み出したのは山川穂高内野手だった。
この日から「日本生命セ・パ交流戦2025」が開幕。有原と涌井の投げ合いで、試合は始まった。2回に安打と2四球で無死満塁とすると、山川が打席に入る。2ボール2ストライクからの5球目、変化球に泳がされる形になったが、センターへきっちりと飛球を打ち上げた。犠飛で貴重な先制点を生み、その後は山川自身も2四球を選んで出塁した。
状況を整理する。同点の2回無死満塁、相手は前進守備ではなかった。2ストライクに追い込まれていたことも含め、チーム打撃が求められる場面だった。山川が「あそこは犠牲フライを狙いました。前に飛ばせばどうにかなると思いました」と口にした言葉は、「全打席ホームランを狙う」という美学と相反しているようにも思える。自分自身の状態も踏まえて、犠飛を放った場面を詳細に振り返った。そこにはスラッガーとしてのジレンマと、高い技術が隠されていた。
「打席の中で変えています。1球1球、状況を見ながらですね。まずは(ホームランを)狙いにいきます。狙うというのは、1球目です。これは絶対条件。狙っている球がこなかったり、厳しい球で(ストライクを)取られたりしたら、次はまたどうするのか。ランナーがいない時は3回、仕掛けに行く時もありますし。それはその時に決めますね」
2回のチャンスにあてはめると「ゲッツーでも1点入る場面ではありましたけど。三振が一番まずいですよね」。1球目はスライダーをファウル、3球目も外角の変化球に空振りした。「初球、2球目は普通に思い切りいきました。追い込まれてからは合わせていきました」というように、1つの打席の中で自分の持ち味とチーム打撃をしっかり両立させようとしていた。
苦しい時ほど試されるのはスラッガーの“資質”
通算261本塁打を誇る球界屈指のアーチスト。5月27日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に放った9号を最後にアーチからは遠ざかっており「乗っている時っていうのは、打つのが当たり前になってくる。苦しい時に打つヒット1本、ホームラン1本は格別ですよ。そういう時に1本出すのはものすごく大変なんです」という。自身の状態をしっかりと把握しつつ、今はチーム打撃を頭に入れながら打席に立たなければならない。
「調子がいい時は、1球目で終わっています。しっかりスイングしたもの、それもバチンとした打球が絶対に前に飛ぶので、後のことを考える必要がない。状態がいい時っていうのは打てる気しかしないんです。球場が狭い、球は遅い、振ったら当たる。そんな感じで行けることもありますけどね」
一時は左ハムストリングの張りを訴え、途中交代を余儀なくされた試合もあった。状態は確実に、そして少しずつ上向いており「今年の体調でいうと、今はバッティング練習でも万全なので一番いいんじゃないですか。やっぱりそこが基準になりますから」と頷いた。首脳陣が課す4番復帰の唯一の条件は「“無双”状態になること」。絶対に揺らがない信念を抱く山川なら、きっと時間の問題だ。
1シーズンのキャリアハイは、2018年の47本塁打。以前、背番号5は「大谷でも去年は54本ですか? ホームランを打つことが一番難しいんです。難しいから挑む価値がある」と話していた。自身の美学を追い求めながら、何よりもチームの勝利を最優先とする。目先だけではない。山川だけの険しい道のりは、これからもずっと続いていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)