キャンプA組も無念の離脱…育成3年目が迎える試練
昨季は2軍で月間MVPを獲得するなど、鮮烈な印象を残したソフトバンクの育成3年目・佐藤航太外野手。八戸学院光星高から2022年育成ドラフト11位で入団し、大きな期待を背負った今季。春季キャンプでA組(1軍)スタートというチャンスを得たが、待っていたのは胃腸炎による無念の離脱だった。シーズンに入ってからは2軍と3軍で汗を流す日々を送っている。
「去年の良い状態の時と比べると、だいぶ落ちてしまっていますね。でも、あの時がちょっと“できすぎていた”っていうのもあるので。去年の結果があると、現状が悪く見られてしまうとは思うんですけど……」
冷静に現状を語る21歳。周囲の期待を肌で感じているからこそ、もどかしさも隠せない。今季もあっという間に6月に入り、支配下の登録期限でもある7月末までは残り2か月を切った。今季は2軍で打率.146。昨季の打率.328に比べると物足りなさを感じる。そんな中、3軍でプレーする佐藤航は何を思うのか――。「そこで倒れたらしゃあない」。現在の心境と、胸に刻まれた“後悔”に迫る。
小久保監督が語った「野球以外の大事なこと」
「いくら打っても大事な時に体調不良になったり、怪我したりすると、(首脳陣は)使いたくなくなると思います。小久保(裕紀)監督にも言われましたが、野球以外で大事なことを教えてもらえました。それは今後に生かせるし、どんなに体調が悪くても、這いつくばってでもグラウンドに行く。そこで倒れたら“しゃあない”というくらいの気持ちでやらないとダメかなと思います」
キャンプ中に患った胃腸炎はすぐに回復したが、以降はB組に合流した。体調管理も大切な仕事の1つ。小久保監督からは「そういう世界だから。昨年の(支配下を勝ち取った)3人(緒方理貢外野手、川村友斗外野手、仲田慶介内野手)はキャンプを完走して結果を出したわけだから」とプロの厳しさを突きつけられた。A組からの離脱は「結構気にしてました」と、簡単には拭えない記憶になった。
昨年、2軍で好調だった時期に偏頭痛に悩まされたことがあった。その際にも、松山秀明2軍監督から厳しい言葉をかけられた経験がある。「『お前は今調子がいいし、試合でも使っている。それなのに大事な時にいなくなったら、それも評価になるんだぞ。今後はそういうことがあっても頑張れ』って言われて、薬をもらったんです」。
その言葉は、佐藤航の意識を根底から揺さぶった。その後は薬を飲む時間も細かく意識。身に起こる変化を見逃すことなく、ベストなパフォーマンスができるように体調管理にも気を配った。だからこそ、キャンプでの離脱は大きなショックだった。「余計に悔しい気持ちです」。“這いつくばってでも行く”という気概を見せられなかったことが後悔として残る。
支配下へ焦りと覚悟…21歳が抱くリアルな本音
支配下登録期限は7月末だ。ファーム非公式戦でも打率.253と苦しい状況が続く。「良い選手は上(2軍)にもいる。(藤野)恵音さんとかもいるので。去年の結果を出すというよりは、それを超えないと無理だと思います」。今季2軍で4割以上もの打率を残し、支配下を掴んだ山本恵大外野手の姿も刺激になった。だが、現状は「バッティングもすごく悩んでいますね」と、もがいている最中だ。
そんな佐藤航を、大道典良3軍打撃コーチは冷静に見守る。「良かったり悪かったりですね。去年2軍で結果を出して、月間MVPを獲ったりとか。その点で見ると、(現状は)ちょっと物足りないところもありますね。ここ(3軍)にいちゃいけないんでね。2軍で勝負しないと。だけど少しずつ良くなっているんで、これからですね」と期待を寄せる。
さらに「元々当て勘がある打者なので、どうしてもそれに頼ってしまうところがある。もう少しスイングの強さなどが出てくると、もっと打てるようになって、長打も出てくると思う。頑張ってほしいなと思います」と、課題と成長への道筋を示す。
何があってもグラウンドに立ち続ける覚悟で、再び輝きを取り戻すための戦いを続けている。「早く戻らないと支配下は無理なんで」。昨年の自分を超えるために――。21歳はもがき続ける。
(飯田航平 / Kohei Iida)