前田純が代弁…「サインを出す時も『俺を信じろ』って」
18.44メートルの空間で、バッテリーは意思疎通を図る。目線、ジェスチャー、声かけ……。キャッチャーが見せる動作の全てが、ピッチャーのためだ。7年目の渡邉陸捕手は初めて開幕1軍入りを果たし、19試合に出場。打率.212、0本塁打、5打点の打撃面に加えて、捕手としても成長しようと日々、準備を続けている。北海道で見せた“15球勝負”、そして「俺を信じろ」という言葉から、24歳の今を紐解いていく。
渡邉と同学年の前田純投手は、7度の先発登板のうち5度、バッテリーを組んだ。「やっぱり投げやすいです。陸は言う時はズバッと言いますね」と信頼を寄せている。「『俺を信じろ』って。サインを出す時も『ここは真っすぐ』みたいな感じの時があるんです。だから意思疎通がしやすいです」。捕手として出番が限られる中でも、投手とのコミュニケーションは欠かすことなく、ここまでを戦ってきた。
俺を信じろ――。投手にとっては、これほど頼もしい言葉はないだろう。背番号00なりに準備を繰り返してきたからこそ伝えられた意思だったはず。どんな真意があったのか、本人に聞いてみた。忘れられない一球が、そこにはあった。
「マエジュンが首を振っても、僕が押したことはありました」。明かしたのは、自らの後悔。今季、前田純とバッテリーを組んだ試合で、お互いのサインが合わないことがあった。渡邉が折れる形で左腕が投げたい球を選択したが、結果的に痛打された。試合を左右する一打だっただけに「自分がこう思ったなら押さないといけないなと思いました。その球を投げるにしても、どういう球にするのかを伝えないといけないと思った1球でした」と、胸に刻まれる出来事になった。
「それがあってから、僕が押したら頷いてくれたりします。逆に、それでも首を振ることもあるので、その時はマエジュンの方に相当自信があるということかなと。投げるのはピッチャーなので、後悔のない球を投げたいはずですから」
前田純とのバッテリーで心がけていることは?
同じ2000年生まれ。同学年の左腕をリードする上で「どういうボールがほしいのか。サインだったりジェスチャーを通じて、しっかり意思表示することは意識しています」という。同じ球種でも、バッテリー間で意図の違いが生まれてはいけない。「ストレートでも真ん中でいいのか、高めなのか、打ち取りにいくのか。色々あるので、そこまでしっかり伝えられるように」と思いを口にする。痛打された反省を心に秘め、コミュニケーションは繰り返してきた。
5月22日の日本ハム戦(エスコンフィールド)、渡邉は先発マスクを被った。6回1死一、二塁から藤井皓哉投手が登板。押し出し四球を与えるなど同点にされ、なお2死満塁で五十幡を迎えた。3ボール1ストライクから10球連続ストレート。15球目はフォークを選択し、空振り三振に打ち取った。バッテリーとしても粘りを見せた場面。リードした24歳も「よくあれだけゾーンに投げてくれました」と感謝する。
結果的に白星を拾った一戦だが、6回の守備が大きな鍵だったことは間違いない。満塁という状況で見極めたいバッターと、四球を出したくない鷹バッテリー。手に汗を握る勝負の中、ラストボールにフォークを選択したのも「藤井さんの準備があそこでできたと思いました。1回(フォークのサインを)出したんですけど、首を振られたので」。マウンドで浮かべる右腕の表情から心理を察していた。藤井も「僕は信じて投げていましたよ」と、胸を張るシーンだ。
北海道で見せた15球…藤井に感謝「よくあれだけ」
高谷裕亮バッテリーコーチも、成長ぶりに目を細める。「出番は限られているんですけど、しっかり勉強もしていると思うし、意図を投手に伝えて自分を表現していると思います」。渡邉自身が出場していない時でも、他のバッテリーがベンチで会話をしていれば近くに寄って耳をすませる。どんな瞬間からもヒントを得ようとする姿勢を、首脳陣も見守っているところだ。「声をかけて、どういう解釈をしているのか。いろんなことを巡らせているんじゃないですか」と日々、一歩ずつ進化を遂げている。
若手時代には、腰痛の影響もあり捕手をやめようともした。7年目となった今、充実した表情でこう語る。「駆け引きみたいなところが面白いですよね」。決断を繰り返すポジション。後悔しないために、徹底的な準備を重ねていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)