28日の日本ハム戦で痛恨の失策…2日後は“ヒーロー”に
笑顔なしのヒーローインタビューだった。5月30日に行われた楽天戦(楽天モバイルパーク)でホークスは4-2で逆転勝ちをおさめた。試合後にマイクを握ったのは、2打点を記録した川瀬晃内野手だった。「甘い球は積極的にいこうと決めて打席に入りましたし、一発で仕留められてよかったと思います」。4時間44分のロングゲームを終えて安堵の言葉を口にしたのは、絶対に取り返したい思いがあったからだ。「自分のワンプレーのせいで」――。
初回に先制された直後、2回の攻撃だった。2死一、三塁から岸のカーブを右前に運び、貴重な同点打。降雨で25分の試合中断が挟まれるなど、厳しい展開で終盤へ。試合再開後の8回、同点に追いつくと、なお2死満塁では押し出し四球を選びガッツポーズを見せた。「イレギュラーなことがありましたけど、雨での中断でもベンチの皆さんが『よっしゃ、やってやろう!』と盛り上げていて、チームの雰囲気もものすごくよかったです」。集中力が途切れなかったのも、まさにホークスらしい明るさが表れていた。
チームメートに救われたばかりだった。28日の日本ハム戦、4回1死一塁の二塁守備で失策を喫した。ゴロを処理しきれずピンチは広がり、その後に先制点を許してしまった。結果的に周東佑京内野手のサヨナラ打で制した一戦だったが、川瀬だけは反省の言葉を並べていた。
選手会長が放ったサヨナラ打で、歓喜を迎える直前。気持ちを整えて、お膳立てをした。1死から海野隆司捕手が内野安打で出塁し、川瀬が犠打を決めて走者を進めた。「目の前の仕事はしっかりやろうという気持ちです。守備と攻撃なので、そこは切り替えていました」。仮に無得点に終わったとしても延長戦に突入するという状況だったが「(プレッシャーは)ありましたよ。こういう展開にしたのも自分のワンプレーのせいだと思っていた。あれをゲッツーにできていたら、こうはなっていなかったと思うので」。ミスの後だからこそ、責任を感じていた。
「取り返せるのはそういうところしか、きょうはなかったので。チームが勝ったとはいえ、個人的には情けない。こういうことをしているからレギュラーを取れないんだろうし、信頼関係だと思う。誰が守備固め、スタメンでいくかとなった時に、こういうプレーをしていたら名前も落ちていく。自分にもムチを打って、もっと練習から意識してやっていかないといけないです」
大切にしてきた“信頼関係”…サヨナラ勝利も「情けない」
自身の現在地も踏まえて、反省ばかりが口をついた。選手と首脳陣の間で結ばれる信頼関係。その“糸”を誰よりも大切にしてきたからこそ「大事なところでミスしてしまうと自分としても悔しいですし、チームにとっても一番痛かったプレーだった」と川瀬自身が許せないワンプレーだった。
今シーズンでプロ10年目を迎えた。失敗を経験するたびにたくましくなってきたが、この日のミスを振り返ると「整理は正直、できないですよ。引きずるなとよく言われますけど、僕はすぐ引きずってしまうタイプです」と認める。その上で「目の前のプレーですよね。エラーをしてもしなくても、集中することは変わらない。自分は守備からリズムを作るプレーヤーなので」と決意を新たにした。
スタメン出場に加えて、ベンチスタートだとしても存在感を放つ。チーム全体を見渡せるのも、川瀬が持つ1つの魅力だ。4月30日、みずほPayPayドームでの試合前練習の出来事だった。杉山一樹投手と肩を組み、声を掛ける姿があった。「俺も調子悪いから一緒だな、スギ」。前日に2敗目を喫したばかりの同学年右腕に、励ましの言葉をかけていた。「同級生ですしね。同じ1軍の舞台にいる以上は、他の人とはまた違う感情もありますから」。
チーム全体を見渡す役割…杉山一樹にかけた言葉
チームが苦しんでいた春先も「いつもやっていることを普通にすればいい。僕は、『1つ、きょうはこれをやる』って決めて、信念を曲げずにやることを心がけています」と話していた。5月、チームは息を吹き返して月間15勝8敗。サヨナラ打を放った2日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)では「いろんなものが込み上げてきました」と、涙を堪えていたことを打ち明けた。自分自身が存在感を放つほど、重圧も大きくなる。キャリアとともに、背負うものが重くなっている何よりの証だった。
雨が降り、肌寒さも残った仙台の夜。ヒーローインタビューに選ばれたことも、まだまだ通過点の1つだろう。「雨の中、最後までご声援ありがとうございました。またあしたからも応援よろしくお願いいたします」。表情は崩さなかった。チームメートと一緒に、心から笑う川瀬晃を早く見たい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)