3軍戦で復帰後初アーチ…「本当に久しぶり」
苦悩と付き合いながら放ったアーチに、喜びを噛み締めた。28日の韓国・KTウィズとの3軍戦(イクサン球場)。快音を響かせたのが生海(いくみ)外野手だ。昨年1月、自主トレ中の打球直撃によって負った「左側頭葉脳挫傷」。そこから始まった長いリハビリは、想像を絶する苦難の連続だった。復帰後初となるその一発に、生海は「気持ちよかったです」と頬を緩めた。
ダイヤモンドを一周する高揚感は格別だった。「本当に久しぶりの感覚で、すごく気持ちよかったです」。29日のKIAタイガース戦でも二塁打を2本放ち、順調な回復ぶりを見せたが、ベンチに戻った生海の手にはアイシング用の氷嚢が握られていた。日の当たらないベンチの奥に腰掛け、後頭部付近を冷やす。打席が近づくとヘルメットを被り、一気に集中力を高める。そんな状況の中でも、なぜ試合に出続けるのか――。その問いの答えが、言葉の端々に滲み出ていた。
いまだに続くめまいと頭痛…欠かせないサングラス
今もなお、激しい運動の後には症状が現れることがある。「ちょっとだけ起こりますね。めまいもそうだし、頭痛もあります」。決して万全とは言えない現状。太陽の光の下で試合を行う際にはサングラスも欠かせない。「日が出たら絶対つけます。疲れやすくなっているので、なるべく光を遮断するようにつけています」と、生海の素顔を見る機会は少ない。
毎朝、トレーナーに体調を報告しては、練習強度を調整する。時には練習に出られない日もある。そんなギリギリの状態でも、本人がグラウンドに立てると判断すれば、可能な限りトレーナーもサポートする。「休憩して、涼しいところで冷やしたら、まぁいいかなと思っています」。アイシングを行いながら試合に出ることは想像以上に過酷だ。それでも、試合に出ている以上は結果も残さなければならない。そんな葛藤の中で生海は戦っている。
「難しいですね。本来ならピッチャーの対策とかをしたいんですけど、今は体調を整えることを優先しないといけないので、そこがすごく難しい」。命に関わるほどの事故だっただけに、当然自身の体調が最優先だ。必死に結果を残そうという葛藤と戦いながらも、打席が近づけばヘルメットを被りバットを握る。今できる最大限の準備を行い、心身ともに戦闘態勢に整えてから打席に向かう。
体調には波があり、試行錯誤の日々だ。「悪い時はこうしたらいいとか、今はちょっとずつわかってきたので、そこをもっと突き詰めていけばいいかなと思います。いっぱい試合に出て、打ちたいだけですね」。その言葉の裏には、計り知れないほどの覚悟と、野球への純粋な気持ちが詰まっている。
大きすぎる妻の存在…「PayPayに見に来てほしい」
その原動力となっているのは、野球への情熱、そして何よりも愛する家族の存在だ。「このホームランを打つために……。そのために野球をまたやりたいと思ったので」。再びグラウンドに立てる喜び、そして結果を出せた安堵感が、その言葉には込められている。そして、その先に思い描くのは、家族が見守るみずほPayPayドームの景色だ。「PayPayで見せたい。PayPayに見に来てほしいです。本当に今は家族に見せたい気持ちだけかな」。その一心が生海を突き動かしている。
特に、妻の支えは計り知れない。「もう本当に大きいと思います。妻がいなかったら野球を辞めていたんじゃないかなと思うぐらいです。精神的にもやられていたので」。苦しいリハビリ期間、そして今も続く体調との戦いの中で、妻の存在がどれほど大きな心の拠り所になっているかがうかがえる。「支えてくれたから涼しいところで見てほしい」と、感謝の念は尽きない。「『なるようになる』って言われていたので、それが良かったのかなと思います」。その言葉が、たくさんの勇気を与えてくれた。
「バッティングはすごく自信があるんですよね。1年目って自信がなかったんですけど、なんか今の方があるというか。メンタルトレーニングしたからか、わからないですけど、なんか今はすごい自信がありますね」
そう力強く語る生海の打席からは、特別な雰囲気を感じる。家族のため、そして何よりも自分自身のためにグラウンドに立ち続ける――。最後にはっきりと口にした。「支配下になります!」。
(飯田航平 / Kohei Iida)