流れ変えた“25分間”…杉山一樹の続投はなぜ決まった? コーチがベンチで伝えていた言葉

今季初勝利を挙げた杉山一樹【写真:古川剛伊】
今季初勝利を挙げた杉山一樹【写真:古川剛伊】

失点直後に降雨中断→約25分後に再び登板

 先の見えない中断の時間でも、気持ちが切れることはなかった。「僕が頑張って抑えるしかない」。試合再開後、2死三塁で中島を高めの152キロ直球で空振り三振を奪うと、杉山一樹投手は淡々とマウンドから降りた。

 30日の楽天戦。1-1の同点で、雨が強まる中、7回のマウンドに杉山が立った。先頭の浅村栄斗内野手に二塁打を浴び、2死を奪ったものの、伊藤裕季也内野手に勝ち越しの適時三塁打を許した。その直後、雨脚がさらに強くなり、審判団が協議。グラウンドにブルーシートが敷かれ、試合は一時中断となった。

 降雨で気温も下がる中、25分間近く中断。さらに得点を許した直後で、なおも2死三塁のピンチ。杉山は再びマウンドに上がることになった。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は、杉山続投の理由を明かした。

「時間を見てですね。行ける範囲なら。中断の長さにもよるので。その辺は杉山としっかりコミュニケーションを取りながら。もう2アウト三塁から登板するつもりでいてくれっていうことは伝えていました」。時間が経てば体は冷え、集中力の維持も難しくなる。コーチ陣は何度も杉山とやり取りを重ね、状態を慎重に確認していた。

 中断が決まった時、すでに時計の針は午後9時を回っていた。観客も徐々に帰路につき、降雨コールドの可能性すらある中で、杉山は味方打線の逆転を信じ、準備を続けていた。試合が再開し、再びマウンドに立った杉山は、中島大輔外野手を空振り三振に仕留め、1失点でピンチを切り抜けた。

スパイクの土を取る杉山一樹【写真:古川剛伊】
スパイクの土を取る杉山一樹【写真:古川剛伊】

杉山が信じた逆転「1点で抑えたら…」

 スパイクの土が取れず、踏ん張りにくいマウンド。フォークが甘く入り長打を浴びる場面もあったが、杉山は「向こうも同じ状況なんで、なんとかしたかった」と言い訳はしなかった。中断中はひとりで考え込み、頭の中を整理した。再開が決まると、捕手・嶺井博希と入念に確認を交わし、マウンドに戻った。

「僕がもし1点で抑えたら、あと2回攻撃できる。逆転できるチャンスもある」と杉山。直後に、味方打線が3点を奪って逆転に成功。チームは計4時間44分に及ぶ試合を制し、杉山には今季1勝目が記録された。

 倉野コーチも「それがあったから、その裏の逆転につながったと思う。中継ぎは無失点で抑えるのが基本ですが、1点取られた後にガクッと来ずに、しっかり踏ん張ってくれたのは大きかったですね」と賛辞を送った。仲間を信じた結果、自らに舞い込んできた1勝目。1失点こそ喫したものの、勝利投手に相応しいピッチングだった。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)