満塁機で痛恨併殺打→値千金の同点打 明暗分けた2打席の“違い”…野村勇の成長を確実にした変化

同点打を放った野村勇【写真:古川剛伊】
同点打を放った野村勇【写真:古川剛伊】

5回1死満塁で併殺打も…7回に貴重な同点打

 悔しさを乗り越えた一打が成長を表していた。「きょうはかけようと思った」という指揮官の言葉が、信頼の証だ。ソフトバンクは28日、日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に2-1でサヨナラ勝利を収めた。ヒーローはもちろん、9回に試合を決めた周東佑京内野手。そして値千金の同点打を放ったのは、野村勇内野手だ。「前までなら代打だったので」――。

 相手先発は左腕の加藤貴。走者を出しながらも、なかなかホームベースを踏めずにいた。5回は3本の安打を集めて1死満塁としたが、野村が遊ゴロ併殺打。1点ビハインドという展開のまま7回に突入し、2死三塁で再び打席へ。池田のカットボールを左前に運び、塁上でも雄叫びを上げた。「よかったです。ホッとしました」。

 昨年までの3シーズン、304打数で115三振を喫した。打撃面で特に確実性を欠き、チャンスを掴めずにいた。今季は主力野手に離脱が相次ぎ、苦境に立たされている中でもチームは勝率5割を維持。野村が頼もしいほどにチームを支えている。この日も、小久保裕紀監督の「きょうは勇にかけようと思った」という言葉に、積み上げてきた信頼が表れていた。

「最後はそういう意味でも送りましたからね。勇にかけようと思っていました。今宮(健太選手)が離脱している期間、5月の成長ぶりがありますから。きょうは勇にかけるつもりでした」

 9回1死から海野隆司捕手が出塁し、川瀬晃内野手の犠打で2死二塁とした。周東が歩かされ、野村勝負となるケースまで首脳陣はイメージしていた。結果的に選手会長が試合を決めたが、背番号99は「回ってくると思っていました」と心の準備はしっかりとできていた。

 5回の打席を振り返っても、さまざまな感情が顔をのぞかせていたという。「次のバッターが近藤(健介)さんだったので、ゲッツーはあかんとか、そういうのもあって慎重になってしまった。いつもなら振っているような初球でも『うわあ、これはいかんとこかな』とか。2球目のフォークも、迷った感じになってしまった」。試されるかのように、2打席連続でチャンスが訪れた。後ろ向きな気持ちは胸にしまい、強い気持ちで向かった。

「次が近藤さんとか考えずに、普通にいこうと思いました。仕切り直して、整理していけました。あんまり落ち込んだりせずに、自分のやることだけに集中できました」

打撃面において感じる技術的な変化「今は…」

塁上で雄叫びを上げる野村勇【写真:古川剛伊】
塁上で雄叫びを上げる野村勇【写真:古川剛伊】

 自主トレをともにした先輩、今宮健太内野手からは「今年やらなクビやぞ」と何度も言われた。野村自身も「自分の価値を自分で下げていた」と認めていたが、勝負どころで“弱気”になってしまうことはもうない。「振らないようにしている低めのゾーンも、見極められるようになってきた。前はボール球を振ってしまって、肩口から入ってくる変化球を見逃してしまっていた。今は打つべきボールを打てています」と、技術的な進歩が結果へと直結している。

 今季はここまで33試合に出場して打率.297、4本塁打、8打点、6盗塁。持ち前のパワーとスピードを生かして、必死にポジションを守ってきた。小久保監督が「勇にかけよう」と思うのは、成長を果たしている何よりの証。野村も「前までだったら確実に代打だったので。それは嬉しいです」と受け止めた。首脳陣が打席を与えたくなるような存在になってきた。

 交流戦が始まる6月3日の1軍復帰を目指して、今宮は調整を続けている。小久保監督は「ショートは今宮になると思う」としつつ、野村についても「他の使い方を考えたくなる。それだけの姿を見せてくれています」と期待を寄せた。野村も「どこでもいいので、試合に出られたら」と背筋を伸ばす。プロ4年目。欠かせないピースとして、ホークス反攻の中心となる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)