2軍戦で“怠慢”も…ドラ1の立場に育成が抱く「羨望」 理解者の存在…イヒネ昇格の真意とは

小久保監督と城島CBOが見つめる中、打球を追うイヒネ・イツア【写真:古川剛伊】
小久保監督と城島CBOが見つめる中、打球を追うイヒネ・イツア【写真:古川剛伊】

小久保監督は1軍昇格に「刺激を与えるというのが1つ」

 純粋に喜んでいられる状況ではない。一番理解しているのは、本人のはずだ。ソフトバンクのイヒネ・イツア内野手が27日、プロ3年目で初めて1軍昇格した。ドラフト1位で入団した20歳の現在地を、さまざまな角度から紐解いていく。育成選手からの羨望の眼差し、ミーティングで上がってしまった“怠慢走塁”、理解者の存在……。大きなプレッシャーを背負った中で、どんな姿を見せられるのか。

 2022年ドラフト1位で愛知・誉高からホークス入りした。1軍経験はなく、今季のウエスタン・リーグでは36試合に出場して打率.176、1本塁打、16打点。小久保裕紀監督も昇格の理由を「何かを感じて帰りなさい、と話をしました。本来なら1軍に上げられる選手じゃない。なんでこのタイミングだったのか。彼に刺激を与えるというのが1つです」と言い切る。そして「危機感を持った方がいい」と、厳しく突きつけた。

「去年は思ったよりも守れるなと思っていたんですけど、今年はエラーが多いじゃないですか。同じ評価だと下がる世界なので。現状維持は退化。今宮(健太)が戻ってくるまでにね、城島CBOとも話をしてこのタイミングしかないと思った。球団も(イヒネを)ドラフト1位で獲得しているわけだし、宇野(真仁朗)や石見(颯真)というイキのいい高卒も出てきている」

 今季、2軍で出場機会を与えられ経験を積んでいるイヒネだが、首脳陣の中ではさらなる積極性を求める声があがっていた。3人のルーキーの存在を踏まえて、高田コーチは「下が入ってきて、いつまでもゆっくりはしていられない。彼がどれぐらい危機感を持ってこれからやるか」という。イヒネの走塁を見ていた育成選手からは「自分がバッターだったら、ヒットが欲しくてヘッドスライディングします」という声も聞こえてきた。喉から手が出るほどほしい支配下の枠。競争の世界なのだから、羨望の眼差しを抱くのも当然と言える。

 一方で「起きた事象に言うだけなら、他の人もできること。それだけではダメだと思うんです」と語るのが、荒金久雄コーディネーター(野手統括)だ。1軍から4軍まで、若鷹たちの変化に目を光らせる役職。イヒネとも、3年間で細かくコミュニケーションを取ってきた。「僕も現役の時に怒られてよかったことなんてないし、ほとんど『うるせえ』って思いますから」と理解を示す。厳しい言葉を伝える存在も大切だが、絶対に孤独にさせてはいけないと荒金コーディネーターは言う。

「心の交通整理をしてあげて、メンタルと方向性だけは見失わないように。寄り添ってあげる人っていうのは絶対に大事です。それは彼には限らないですけど、多感な時期ですし、生活からしっかりしているような選手なんです。提出物も一番早いですし、アンケートの自由記述の部分も必ず書いてきます。決められたことはきっちりとやってくる。あとは能動性という部分だと思います」

孤独にさせない理解者の存在「メンタルを見失わないように」

 投げやりになってしまわないためにも、理解者の存在は必要不可欠だ。イヒネは荒金コーディネーターについて「大切な人」と表現する。「荒金さんと話をしていたら、いいメンタルではいられます」。ミーティングでも議題に挙げられた走塁に関しては「言葉がないです。頑張るしかありません」と振り払うように言った。プロ野球選手である以上、結果が全て。自分の現状を受け入れて、一歩ずつ前に進むしかない。

 期待はもちろん、何かのきっかけになることを首脳陣は望んで、1軍昇格させた。このままではいけないという明確な危機感が必要だ。「走攻守、全力でやるのでそこを見てもらえたらなと思います」と、イヒネは小さく意気込んだ。緊張感と重圧が溢れる舞台の中で、自分を変えるためのチャンスを掴む。

(竹村岳 / Gaku Takemura)