【連載・川瀬晃②】「自分のことで精一杯だった」 川瀬晃を変えた転機…献身さに見る“ベンチの存在感”

原点にあるキャプテンシーとプロでの苦悩

 人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。川瀬晃内野手の第2回目、テーマはグラウンドやベンチで見せる“献身的”な姿についてです。「最初は自分のことで精一杯でした」と振り返った川瀬選手。チームのために尽くす姿勢はいつから培われたのか? ベンチスタートとなった際の“定位置”を決めていることにも深い理由がありました。

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 プレー中の気迫あふれる姿はもちろんのこと、ベンチにいる際にもチームのために献身的に動く姿が印象的な27歳。思い返したのはプロ入り前の記憶だった。

「高校時代はキャプテンだったので。自分のことだけでなく、チームや後輩のことなど、常に周りを見ていたように思います。昔はそうでしたね」。元々キャプテンシーは備わっていたというが、プロの世界に飛び込んでからは環境の変化とともに意識も変わっていった。

「最初は周りのことよりも、まずは自分の技術をどうにかしなくちゃいけないという思いでした。すごくレベルが高い人たちばかりだし、想像以上にプレッシャーを感じたのを覚えています。プロ入り後は、どちらかと言えば自分のことで精一杯だったなと思いますね」

 高校を卒業してからのプロ入り。自身のことで手一杯だった時期があったのは当然だ。そこから周囲を見渡し、チームに貢献する現在の姿へと変わっていった転機はどこにあったのだろうか。

転機となった1軍経験…ベンチ最前列の「準備」

「それは難しいですね……。でも1軍も経験させてもらって、少しずつ慣れてきた頃からだと思います。スタメンで出る時とそうでない時がありますけど、ベンチに居る時にすごく周りを見るようにして。例えば僕は内野手ですけど、外野手がどういう動きをしているか、とかですね。ちょっと余裕が出てきた時に、色んな方向や周りを見れるようになったなとは思います」

 1軍でコツコツと積み重ねてきた経験があったからこそ、徐々に視野が広がり、再び周囲に意識を向ける余裕が生まれた。それを象徴するのがベンチでの“ポジショニング”だ。スタメンを外れた際は、カメラマン席寄りの最前列に位置取ることが多い。

「試合に入り込んでいくというか。お客さんの声援を聞きながら、雰囲気を感じるためです。途中から試合に出る事が今は多いので、その時にあたふたしないように。球場の雰囲気をベンチで感じながら、という感じです」

 ベンチの最前列で試合の“熱”を自らの体に取り込むことで、自身の出番が訪れた際にスッとゲームに入りやすくなるという。さらに野手の動きなどが一番見えやすい位置がカメラマン席寄りの最前列だそうだ。ベンチでの立ち位置1つをとっても、途中出場で最高のパフォーマンスを発揮するための準備でもある。

モイネロの左肩に何かを語りかけるような仕草を見せる川瀬晃【写真:栗木一孝】
モイネロの左肩に何かを語りかけるような仕草を見せる川瀬晃【写真:栗木一孝】

無意識のサポート…個々に寄り添う“献身”

 13日の西武戦(京セラドーム)では、先発したリバン・モイネロ投手の左肩に何かを語りかけるような仕草を見せたことがあった。「覚えていないですね。特に何もしていないと思いますけど(笑)」と記憶にない様子だったが、それが当たり前のこととなっている証でもあるだろう。その上で、配慮も欠かさない。

「ピッチャーも人それぞれで、話しかけてほしくない人と、話しかけてもいい人は自分の中で区別しながらやっています」

 試合状況や性格を考慮し、コミュニケーションの取り方を変える。こうした細やかな気遣いもまた、川瀬の献身的な姿勢の表れだ。自身の経験から培われた広い視野と、チームを思う心。川瀬がベンチの前方で戦況を見つめ、仲間を鼓舞する姿は、チームにとって欠かせない存在であることを物語っている。

(飯田航平 / Kohei Iida)