
葛藤とプライド「周りは言ってますけど、僕は…」
人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」に川瀬晃内野手が登場です。テーマは5月2日に放った“サヨナラ打”について。6連敗を阻止した価値ある一打について「別にそんなことはないです」とそっけなく語った川瀬選手。そう話した理由に迫ります――。
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5連敗という重苦しい空気を切り裂いた。5月2日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)、1-3のビハインドで迎えた9回。2死走者なしからの劇的すぎる逆転サヨナラ勝ちの主役となったのが川瀬だった。1点ビハインドの2死満塁で左中間を破る一振りがチームをどん底から救った。6連敗を阻止したことはもちろん、以降は6カード連続の勝ち越しという快進撃の狼煙となった。その一打がいかに価値あるものだったかは、その後のチームの躍進が物語っている。
しかし、劇的勝利の立役者でありながら、川瀬自身の口から出る言葉は意外なほど冷静だった。「あの一打からチームが波に乗った」と周囲が称賛する中で、「周りは言ってますけど、別にそんなことはないです。実力というか、僕はその試合にスタメンで出ていないので」とあくまで淡々と語る。
一瞬のヒーローで終わるつもりはない――。あくまでも「スタメン」として名を連ね、勝利に貢献し続けることだけを見据える。その意志が言葉から溢れる。
サヨナラ打以降、川瀬は13試合連続でスタメン出場がなかった。チームに怪我人が続出している状況だからこそ、それが逆に何倍ものもどかしさとして募るばかりだった。
「これだけ怪我人が多くて、逆にスタメンで出られないっていう、自分の情けなさというか……。今は自分の実力のなさもすごく感じています」
首脳陣の厚い信頼も…「誰しもがスタメン狙っている」
首脳陣が試合終盤の勝負どころで川瀬を起用したいという意図は間違いなくあるだろう。だが、川瀬が満足する場所はそこではない。「最初から控えでというのは考えていない。僕だけじゃなく、誰しもがスタメンの座を狙っている。そのためにオフシーズンからずっと準備してくるものなので」。
それでも与えられた役割の中で全力を尽くすのがプロ。それをだれよりも体現している。「スタメンと控えでは、もちろん準備の仕方も違うんです。だけど準備はどっちにしろしないといけないので、そこはあまり変わらないと思います」。首脳陣がさまざまな起用方法を想定することができるのも川瀬だからこそ。自身もそこに一切の抜かりはない。
「慣れちゃいけない」…ストイックな日常が生む勝負強さ
日々のケアに関しても、ストイックな姿勢は一貫している。「あまりトレーナーさんの力は借りずに、自分でストレッチやトレーニングをしながらケアすることを意識しています。勿論トレーナーさんがケアしてくれるのは本当に有難いです。だけど、それに慣れちゃいけないなっていうのはすごく思うので。まだ30歳にもなっていないですし」。甘えを許さない姿勢が、ここ一番での勝負強さに結びつく。
川瀬のサヨナラ打は、今季を振り返った時にターニングポイントになった一打として語られることになるだろう。それでも視線は常にスタメンの座に向けられている。サヨナラ打のヒーローが見据えるのは、チームを勝利に導く不動のレギュラーだ。
(飯田航平 / Kohei Iida)