試合を見ていて抱いた純粋な疑問…3人の答えは
投手が投げた球が、ワンバウンドする。捕手が振り返り、球審から新しいボールを受け取る。こんな光景は、ファンの方なら何度も目にしたことがあるだろう。そこで、純粋な疑問を抱いた。「それだけで替えてしまうの?」。
高校野球をはじめ、アマチュアなら土がついた程度でボールは交換しない。新球が詰まったダースを開ける時は気持ちがワクワクしたし、硬球独特の革の香りはいつになっても新鮮だった。だからこそ、すぐに替えてしまうプロの世界を見て「どんな理由があるんだろう」と疑問を抱いていた。高谷裕亮バッテリーコーチ、渡邉陸捕手、石塚綜一郎捕手に聞いてみた。
高谷コーチは「僕らも、そのまま渡そうとしたことが何回もありますよ。でも審判の方から『はい、貸して』って言われますね」という。2006年ドラフト3位でプロ入り。入団時を振り返ると「土がついても、『替えないでそのまま返してくれ』って投手はいましたよ。特に外国人に多かったですね。滑るのが嫌だから」と、そんなところにもピッチャーの個性が表れる。「でも、なんでですかね? 聞いたことはないです」。
そして高谷コーチが思い出したのは、あるルールの存在だ。「今って、キャッチャーがボールをこねるのがダメなんじゃなかったかな」。そこに海野隆司捕手が通りかかる。「ダメなんだよね?」と問うと、プロ6年目の背番号62は「そうです」と小さく頷いた。
通りかかった海野に“確認”「今ダメだよね?」
「こねる」とは、ボールを両手で強く揉むような動作。見慣れた光景かもしれないが、プロの世界で「こねる」ことを許されているのは投手だけだ。渡邉は「これ(ユニホームでボールを拭く)は、ピッチャーもダメなんですよ。摩擦が生まれるからです。それが禁止だから、1球で替えるっていうのもあるんじゃないですか?」と代弁した。小さな土、摩擦ですらも投球に影響を与えるかもしれない。新球に替えるのは、公平性を保つことも目的の1つのようだ。
石塚は、ファーム非公式戦での経験も豊富。「僕も入団してびっくりしました。拭く行為自体が違反。それくらい厳しいです。高校野球だったら、いかに綺麗にして投手に返すか、でしたよね(笑)」と、プロ野球に入って知った知識だった。3軍戦、4軍戦だとしても当然、同様のルールが適用されている。
石塚いわく、1度でも替えたボールは“ロスト”。つまり、その試合ではもう使われないという。「その時点で、もうダメです。ピッチャーが新しい球を受け取って、それでもまた替えるみたいな時あるじゃないですか。1回も投げてないですけど、そのボールももうダメです。1日に100球以上は使うらしいですよ」。試合で使われなくなったが、限りなく“新品”に近い数々のボール。それはノックやキャッチボール用となり、1軍から2軍へと降りていく流れだ。
3軍戦でも同様のルール「その時点でもうダメ」
アマチュア時代、縫い目が解けるなど、傷ついたボールをビニールテープでグルグル巻きにして、ティー打撃用にする。プロの選手だとしても、経験したことだろう。常に新しいボールでプレーするのも、プロ野球だからこそ。渡邉が「キャッチャーからすると、より綺麗なボールで投げてもらいたいっていうのはあります。この世界に入って『いくらでも替えていい』って知ったので」と話せば、石塚も「夢がありますよね」と初心を忘れていなかった。
付随する話だが、ホークスでは新しいカードに入るたび、バッティング用のボールを入れ替える。スタンドやネットに当たるたびに、球は傷つき、少しずつ変形していくからだ。最高の設備、最高の環境でプレーすることも、プロ野球選手が与える夢。公平性が保たれた中、選手たちは全力でプレーをするから、ファンは心から感動する。
(竹村岳 / Gaku Takemura)