主力離脱だけではない…3、4月の低迷招いた「9.4%」 リーグ1位→ワーストに転落した“ここぞの力”

得失点差はわずか-5も…露呈した勝負弱さ

 5月に入ってホークスが息を吹き返している。22日までの19試合で13勝6敗と大きく勝ち越し。着々とAクラスに迫りつつある。4月を終えた時点でリーグ最下位に沈んでいた昨季王者が、徐々に本来の姿を見せ始めている。

 この好調ぶりを見ると、なぜ3、4月はあれほど苦しんだのかと不思議に思えてくる。もちろん近藤健介外野手や柳田悠岐外野手をはじめとした主力不在の影響はあっただろう。だが、それは5月に入っても変わらないままだ。あれほどの苦戦にはほかの要因があったように思えてならない。なぜ開幕ダッシュに失敗したのだろうか。

 ホークスは3、4月の計26試合を9勝15敗2分。借金6を抱え、リーグ最下位に沈んでいた。主力の大量離脱を考えれば、投打のパフォーマンスが極めて悪かったのではないかと思えてくる。

 だが、得失点差で見ると印象は変わる。3、4月のホークスは得点が88に対して失点は93。その差はわずか-5しかない。得失点差だけで見れば楽天(-16)やロッテ(-8)のほうが悪かった。にもかかわらず、ホークスの順位が下だったのだ。なぜ数字の印象以上に苦しんだのだろうか。

 その答えは接戦の弱さにある。4月を終えた段階で、2点差以内で決着した試合は4勝8敗2分と4つの借金。6つあった借金のうち、4つが2点差以内の接戦で背負ったものだった。仮に1点差で敗れた試合が2試合、5点差で勝利した試合が1試合あったとする。この場合、得失点差は+3だが、勝敗は1勝2敗。ホークスも同じ仕組みで、得失点差はそれほど悪くなかったにもかかわらず、大きく負け越していたのだ。

 リーグ優勝した昨季のホークスは、当然ながら接戦でも強かった。2点差以内の試合は41勝26敗3分の勝率.612。シーズンを通して15もの貯金を作った。僅差でも数多くの勝利をもぎ取ってきたチームだったのだ。そんなホークスがなぜ、わずか1年でこれほど接戦を落とす事態に陥ったのだろうか。

開幕からホークスが抱えていた「深刻な問題」

「場面の重要度」を測るデータを用いると、その要因が見えてくる。当然ではあるが、野球では同じプレーでも試合の状況によって勝敗への影響度合いが変わってくる。同じ9回の本塁打であっても、それが大量リードの場面で出たものか、それとも同点で出たものかによって、影響度がまったく異なるのだ。前者であれば大勢に影響はないが、後者であれば殊勲の一打になるかもしれない。勝敗への影響度は試合展開によって変わってくる。

 重要度を機械的に数字で算出したものが「場面の重要度」である。DELTAではあらゆる場面の重要度を「高」「中」「低」の3つに分類している。たとえば同点の9回裏2死満塁であれば、場面の重要度は当然「高」に分類される。今回は、この重要度「高」の場面において、投手が三振を取れているかどうかに着目したい。

 実はこの点において3、4月のホークス投手陣は深刻な問題を抱えていたのだ。三振の頻度を示す三振%(三振÷打者)で見ると、期間中に投手陣が記録した数値は17.9%。これはリーグ平均(18.3%)とほぼ同じだ。ところが、重要度「高」に絞ると、15.5%でリーグ最下位に落ち込むのだ。

 三振は不運や失策による失点が起こりにくく、最もリスクが小さいアウト獲得手段である。データを見れば、ホークス投手陣は試合を左右する重要な場面において、よりリスクに晒されやすい投球を続けてしまっていたと言えそうだ。

 昨季のホークスは重要度「高」の三振%が24.6%。これはリーグトップの数字だったが、今季の期間中は15.5%で、昨季よりも9.1ポイントも低下してしまった。これはパ・リーグの中で最大の下げ幅だ。“ここぞの場面”でしっかりと三振を奪えていた昨季とは全く違う姿を見せているようだ。

救援陣は及第点も…先発陣に顕著だった課題

 接戦での敗戦が多かったと聞くと、どうしても試合終盤に勝ち越しや逆転を許すケースが頭に浮かぶ。特に抑えが打ち込まれてのサヨナラ負けなどは、印象に残りやすい。それを踏まえると、救援陣の奪三振能力に課題があったのではないかと思う人も多いだろう。だが、ホークス救援陣は3、4月の期間中、重要な場面での三振%はリーグ4位の19.7%と、ある程度は三振を奪えていたことがわかる。

 問題があったのは先発陣だ。重要度「高」での三振%は、わずか9.4%。ワースト2位のオリックスにも4ポイント以上の差をつけられての最下位である。確かに3、4月の試合を振り返ってみると、先発が踏ん張りきれずに落とした試合はいくつもある。期間中にホークスが接戦で勝ちきれなかった要因は、救援陣よりもむしろ先発陣が踏ん張りきれなかったことにあるように見える。

 一方で、このデータの解釈は難しい。ホークス投手陣が勝負弱かったようにも受け取れるが、開幕から間もない短い期間では選手本来の能力とは関係なく、こういった偏りが起こる可能性は十分ありえる。シーズン序盤に4割打者が多く出てくるのと同じ仕組みだ。少なくとも偶発的な要素が極端に悪い方向へと振れてしまった可能性は否定できない。勝負どころの配球に問題を見いだすなど、あまり原因を求めすぎるのも適切ではないだろう。

 勝負どころでの奪三振の少なさもあり、接戦で苦しんだホークスだが、5月に入ってから潮目が変わった。5月2日から6日にかけての5連勝は、うち3試合が2点差以内での勝利。5月全体を見ても2点差以内の試合は6勝3敗と、際どい試合を勝ち切れる本来の姿が徐々に戻ってきている。現在の好調に加え、接戦をものにする戦いを継続できれば、ここから一気に順位を挙げていく未来も現実的になってくるだろう。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。