打者が仕掛ける“駆け引き”…杉山の本音は?
「あぁ、またか……」
マウンドからガンガンと投げ込む杉山一樹投手に対して、打者から「タイム」の声がかかる。今季、特に目立つようになったこの光景。右腕の持ち味でもあるテンポの良い投球を乱そうという意図や思惑がうかがえる。
今季は22試合に登板し、防御率1.25と中継陣の中でも抜群の安定感を見せている杉山。捕手とサインを交換し、投球モーションに入ったタイミングで相手打者が狙いすましたかのように打席を外してくるのも、対応に苦慮していることの表れだろう。
投球動作に入った後にタイムをかけられるのは、投手からすればすっきりしないもの。投げづらさを感じたり、そこからリズムを乱して失点につながったりするケースもある。これに対して杉山自身は何を感じているのか――。
「めっちゃタイムをかけられていますよね。お互いフラットな状態になるまで外して、もう1回(投球動作に)入る時間も無駄だし。『もう早く勝負しようよ』という気持ちです」
一見、勝負を急いでいるかのようにも思えるが、そうではない。昨季から築き上げてきたものがある。タイムで揺さぶられても、そう簡単には崩れない自信があるからこその言葉だ。
倉野投手コーチの見解「むしろ…」
事実、頻繁にタイムをかけられている今季、杉山の投球内容に大きな乱れはない。21回2/3を投げて、与えた四球はわずか6つ。9イニングあたりの四球率はキャリアハイだった昨季の3.93(50回1/3で22四球)を上回る2.49と、安定感はむしろ増している。「僕のピッチタイムが早いから、相手がタイムをかけてくるのは想定内です」。打者の狙いは織り込み済み。揺さぶりを意に介さない。
「それもひとつの技術だと思います。テンポがいいことは、良いピッチャーの条件でもあるので。そういう意味でも僕はいいと思っています」
杉山の冷静沈着ぶりは、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も認めるところだ。右腕がその程度の揺さぶりで乱れる投手ではないと断言する。「相手がテンポを嫌がっているということ。でもそれは杉山のいいところだと思うんで、変えずにどんどんいってもらいたいなと思っています。むしろ『もっとやってやれ』くらいに思います」。テンポの良さは武器の1つ。今のスタイルを全面的に後押しする。
5月12日のオリックス戦では対抗策も
杉山の“早投げぶり”がよくわかる比較対象がある。試合の時間短縮に貢献した投手が選出されるスピードアップ賞。その定義は「無走者時の投球間隔」となっており、ボールを受け取ってから次の投球に移るまでの時間が基準となる。過去には2017年に牧田和久投手(現2軍ファーム投手コーチ)が7.5秒で選出されたこともあるが、受賞者の投球間隔が10秒を超える年もある。一方で、杉山はボールを受け取ってからわずか6秒ほどで投球動作に入ることもある。いかにテンポが良いかがわかる。
「僕が変える必要ないかなと思いますね。イラつきもしていないし、何とも思っていないので。逆にもっと早くしてやろうかなって思っています」と、杉山自身も相手のペースに巻き込まれる気はさらさらない。5月11日のオリックス戦(京セラドーム)では、タイムをかけられた直後に同じサインで素早く投球し、相手の意図を完全に封じた場面もあった。
自身のスタイルへの確固たる自信が、相手の揺さぶりをものともしない強さを支えている。相手がタイムをかける時、それは杉山のペースであることを意味する。打者の小細工などお構いなしに、自慢の剛速球を投げ込んでいく。
(飯田航平 / Kohei Iida)