今宮健太と2人だけの“濃厚すぎる40分” 19歳が受け取った言葉「怪我してよかったまで…」

ノックを受ける中澤恒貴(右)と今宮健太【写真:飯田航平】
ノックを受ける中澤恒貴(右)と今宮健太【写真:飯田航平】

今宮が中澤にノック→2人で守備練習を行った

 濃密すぎる“2人だけの時間”は突然始まった。20日の午前、タマスタ筑後のグラウンドでノッカーを務めていたのは今宮健太内野手だった。打撃練習の合間、育成の中澤恒貴内野手にノックを打ち、その後も2人で守備練習に取り組んだ。併殺の取り方や足の運び方など、実戦的な動きを丁寧に指導していた。

「すごいです!  本当にすごい!  怪我して良かったとまでは言えませんが……。でも、それくらい価値のある時間でした」。5月頭に試合中のアクシデントで右肩を亜脱臼した中澤だが、練習を終えたその表情は充実感に満ち溢れていた。5度のゴールデングラブ賞を誇る名手から受けた約40分間にわたる指導が、いかに貴重だったかを物語っていた。

 ともにリハビリ組に合流したことで偶然生まれたこの機会。「僕からあまりアドバイスをするタイプではない」と語る今宮が、なぜ自らノックを買って出たのか。そして、19歳の若鷹がその時間から受け取ったメッセージとは――。

“今宮ノック”は無言で始まった。リハビリ組のフリー打撃中、中澤は実戦に近い形で守備練習を行うため、遊撃のポジションについていた。しかし、打席に立っていた近藤健介外野手の打球は右中間へのライナー性の当たりが多く、なかなか守備機会が訪れなかった。それを見た今宮が、静かにバットを握った。

「(ノックを)やって、いいか悪いかはちょっとわからなかったけど、(中澤が)捕球練習をしていてもなかなか打球が飛んでこなかったので。僕もそういう時間があったりするので、せっかくなのでね。彼自身が色々話を聞いてきてくれましたし、守備のことに関しては、ある程度自信を持っているので、アドバイスすることはできると思っているので。大事だと思います」

 グラブトスのやり方や足の運び方、打球への入り方まで細かく指導。特に三遊間の打球に関しては、中澤がこれまで学んできたことが正しかったと再確認する機会になった。練習と試合では打球の捕り方が変わってくるという。

「練習では、正面に入れる打球は入った方が後々生きてくると言われました。試合ではアウトにできれば何でもいいけど、練習では形を突き詰めて、足を使うことで今後に繋がる、と。本当にその通りというか。3軍で金子(圭輔)コーチと言っていることは一緒だったので、守備がうまい人の考えは一緒なんだなと感じました」

間近で知った今宮の凄み「1回じゃ真似できない」

 間近で見た今宮の守備。中澤が強く感じたのは「堅実さ」だった。高い身体能力を活かしたド派手なプレーでこれまでにもファンを沸かせてきた33歳の守備も、一つ一つを堅実やっているからこそだと気づいた。「基本があってのプレーです。リズム感がいいですし、特にゲッツーはリズム感がすごく大事だと感じました。今宮さんのリズム感は1回見ただけでは真似できない。体に染みついていて、多分足を使っている中でのリズム感だと思います」と頷く。「焼き付けました。もう違いますね。全然違います」と興奮気味に話す。

 チームとしては開幕から負傷者が相次ぎ、3、4月は大きく負け越した。一方で、筑後を訪れる主力選手は若手にとって“生きた教材”。斉藤和巳3軍監督も以前「1軍には申し訳ないけど、こちらとしてはすごくありがたい時間」と話していた。「3軍、4軍では、1軍と違って練習量はいっぱいある。まずはできる範囲内で(今宮に)言われたことをやってみて、今後に活かしていこうと思う」と中澤。思わぬ形で生まれた名手との時間。この40分間は何よりの財産となったはずだ。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)