12日に発表されたトレードで支配下枠は「67」に
ゼロを並べ続ける右腕は、動じない。「自分ではどうにもできない次元の話なので、やることをやってチームに必要とされる投手になれることが大優先なので。そうとしか思わないです」と語るのは、川口冬弥投手だ。日課は、日記を書くこと。最後に必ず記す一言が、背中を押してくれる。「大丈夫、全部上手くいく」――。
ソフトバンクは12日、巨人と1対2の交換トレードを発表した。リチャード内野手が移籍し、秋広優人内野手と大江竜聖投手を獲得。大砲候補と変則左腕がホークスに加わり、支配下枠は「67」となった。4月12日、支配下登録した山本恵大外野手に続き、開幕以降では補強第2弾となった。
小久保監督も「まだ3枠ある」と言及した。川口はウエスタン・リーグで11試合に登板して防御率0.00。13イニングを投げて15個の三振を奪っている。争う立場の1人として“1枠減”をどのように受け止めたのか。「自分ではどうにもできない」という言葉に、右腕のマインドセットが表れている。
「このチームにきて、大関(友久)さんとか板東(湧梧)さんと話をしていて、いろいろ勉強しました。自分は今まで、そもそもが三流選手、四流選手だった。上を見て、上を見て、というメンタルでやってきた。それがだんだんと、自分の目指す姿に対してアプローチする、そこに対して目標設定をすればいいんだと、学べているところです」
東海大菅生高時代、1度も背番号をもらえなかった。フォームが定まらず、ストライクが入らない時期すら経験。そこから自らの努力でプロの扉を開いた。「『板東さんちょっと聞いてください』って、そういう声をかけてもらいに自らいきますし。キャンプの時は“ミスって”いました。自分では操作できないことを目標にしていたので」。進むべき道をどのように設定すればいいのか。力を貸してくれたのが大関だった。
「大関さんに相談して。『自分でコントロールできる範囲内で、ここまでは絶対に守る、こういう動作を絶対するって意識すれば上手くいくよ』って教えてもらいました。自分もあたふたするタイプだと認識しているので、そうやって助けてもらます」
先輩たちにいつも相談「大関さんと板東さんに」
四国IL徳島で過ごした2024年、当時のチームメートがきっかけとなり、日記を始めた。「毎日ですね。その最後に小さい目標と大きな目標を、口に出しながら書きます」という。防御率0.00、支配下登録という目標に向けて最大のアピールが続いている。「文字にしているから目で見ているし、口に出すから耳でも聞いている。だから揺らぐこともないし、今はたまたま点を取られていないですけど、取られたとしても一喜一憂することなく、やるべきことをやるというスタンスです」と胸を張った。
机と向き合い、ペンを取るタイミングは就寝前。「自分を奮わせる“合言葉”を書いて、1日を終える感じです」と、少し照れながら明かす。今大切にしている一節を、教えてもらった。「絶対最後に書く言葉は『大丈夫、全部上手くいく』です」。
大人気漫画「キングダム」に登場するキャラクター・桓騎(かんき)のセリフだという。高校時代から追いかける大好きな作品で「自分の仲間に向かって『俺についてきていたら全部上手くいく』みたいなことを言うんです」と嬉しそうに話す。今では自分を強くしてくれる大切な言葉だ。「今回の『枠が1つ減る』みたいな嫌なことやアクシデント。それも全部自分の目標に対する“前振り”程度に思っておけば、動じることもなくなるので」。支配下登録まで険しい道のりであることはわかっている。だからこそ、絶対に迷わない。
「絶対に無失点に抑えるとか、エラーもあるかもしれないから、自分でコントロールできないことじゃないですか。マウンドで最高のパフォーマンスをするためにきょうはこれとこれを試してみる、だとか。その繰り返しです」。報われない日々を乗り越えて、未来を変えてきた。誰よりも自分を信じる川口冬弥なら、結果は必ずついてくる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)