弟子たちが勢揃い…中村晃も「気づかなかった」
師匠を中心にしてクリーンアップは組まれ、扇の要にも弟子が座った。大切な教えを吸い込んだ後輩たちだ。ソフトバンクは15日、西武戦(みずほPayPayドーム)に5-0で勝利した。中村晃外野手が今季初の4番に入ると、3番は栗原陵矢内野手、5番には柳町達外野手だ。スタメンマスクは渡邉陸捕手と、中村と自主トレを行った選手たちが勝利に貢献した。
試合前、監督室に呼ばれて4番起用を通達された。「意識はなかったですけど、流れ的には自分の4つ後ろに山川がいる感じになりましたね」。2回無死、まずは背番号7が打席へ。右翼線への二塁打で出塁すると、柳町の中前打で先制した。「1打席目にいい形で回してくれたので、なんとか返そうと思っていました。晃さんが二塁からめちゃくちゃいいスタートを切ってくれたので、タイムリーになってよかったです」と声を弾ませる。
4回にも栗原の右前打からチャンスを作り、渡邉の右前2点打で追加点を挙げた。4人が得点に絡む活躍に中村も「そんなことは気づかないくらい、自分のプレーに集中していました……。みんな活躍してくれて、1軍の舞台で出場できるのはいいこと。みんなで頑張りたいです」。自主トレを過ごしてきた中で、弟子たちは師匠から何を学んできたのか。柳町が明かすのは、今も覚えているような強烈なアドバイスだった。
「まずは初めての自主トレだったので、どういう感じでやっているのかを教えてもらった。しっかり練習量もありましたし。あとは、ずっと晃さんが言っていたのは『自分で上手くなれ』と。人から教わることよりも、自分で考えて、というのは自主トレ中、ずっと言っていました」
聞かれれば答えるというスタンスを常に貫く。チームスポーツではあるが、プロ野球選手は個人事業主。自分自身の力でポジションを勝ち取るしかない。中村自身も若手時代に小久保裕紀監督や長谷川勇也R&Dグループスキルコーチ(打撃)と自主トレをともにした経験はあるが、それ以降は「1人」でオフの鍛錬を積んできた。
柳町も「結局、助けてくれるのも、救うのも自分でしかない。この世界は。自分と向き合うことが大事なんだなと。今思えば、あの時に聞いておいてよかったのかなと思います」という。昨シーズン、そして今季も開幕1軍を逃したものの、チャンスが来た時には絶対に手にしてきた。打率.329という存在感を思えば、「自分で上手くなれ」というのは背番号32のキャリアにも重なるような言葉だった。
渡邉陸が語る先輩たちの凄さ「引っ張ってくれる」
今年1月も、中村とともにトレーニングを積んだ渡邉。「『早く自分で自主トレしろ』って、去年(2024年1月)も言われました」と明かす。もちろん、頼れるベテランから学びたいことがたくさんある。その上で「自分で、いいものを見つけて掴んでいくのがこの世界で成功する人だと思う。コーチの力とかは借りますけど、最後にやるのは自分。大切なことだと思います」と頷いた。開幕から1軍にいる中で、先輩の背中からは得るものばかりだ。
「自主トレだけではないですけど、1軍にいて、僕が見て感じるのは準備の大切さ。晃さんはすごく準備を大切にされている方なので、見て学んでいます。チームを引っ張っていく上でも、違いがあるというか。晃さんなら試合前の姿勢で引っ張ってくれる感じがある。クリさんはグラウンドでもまとめてくれようとしているのは感じます。試合中にバッティングの話もするので、そういうのは感じます」
栗原は今季がプロ11年目。井上朋也内野手や川村友斗外野手ら、今はもう後輩を引き連れて自主トレをする立場だ。「打席に立って、なんとかするのは自分なので。言葉で伝えるのは難しいですけど、僕もどんどんやっていかないといけないですね」と、中村から学んできたことは胸に刻んである。球界を代表する内野手になれたのは、自分の力で道を切り開いてきたから。「もちろんです。責任は全て自分です」と、プロとしての矜持は「晃さん」から教えてもらった。
柳田悠岐外野手がいない今、1軍の最年長は中村晃だ。15日の西武戦後も「いいゲームだったと思います」と喜べば、渡邉もこれだけ自主トレメンバーが揃った試合を「みんないいバッターですし、すごいなって思います。『4番・中村晃』ってやっぱりカッコいいですよね」と笑顔で話した。師匠と弟子たちが今、ホークスで受け継がれてきた伝統を思う存分に証明している。
(竹村岳 / Gaku Takemura)