支配下「残り3枠」の有力候補は? 過去の昇格例に共通…勝敗&防御率より“重要な2つの指標”

宮里優吾、川口冬弥、宮崎颯、大城真乃、井崎燦志郎、大竹風雅(左上から時計回り)
宮里優吾、川口冬弥、宮崎颯、大城真乃、井崎燦志郎、大竹風雅(左上から時計回り)

育成選手は“即効薬”になり得るのか?

 ホークスにとっては、苦しい春だった。パ・リーグを制覇した昨季は開幕からスタートダッシュに成功し、3・4月終了時点で貯金12を作った(26試合を18勝6敗2分け)。しかし今季は一転、4月を終えた段階で借金6(26試合で9勝15敗2分)。貯金にして「18」もの差が生まれた。

 開幕直後から苦戦が続いた最大の要因は主力野手の相次ぐ離脱だが、投手陣の不調も深刻だ。3・4月の1試合平均失点はリーグ最下位の3.58点。開幕投手を務めた有原航平投手の不調など、先発陣もやや振るわなかったが、昨季からの落差が大きいのは救援陣だ。昨季は圧倒的な投球を見せていたダーウィンゾン・ヘルナンデス投手が4月中旬に出場選手登録を抹消されるなど、すでに盤石ではない。5月に入ってから3カード連続の勝ち越しで巻き返しを見せているが、さらなる浮上には新たな投手の台頭も求められる。

 ホークスの場合、50人を超える育成選手を抱えており、過去にも支配下登録された投手がチームを救った事例が何度もあった。今季もここまでは投手陣が苦しい状況なだけに、“2桁背番号”を手にする投手が生まれる可能性は十分にある。

 4月12日には山本恵大外野手が支配下登録を勝ち取り、残る「枠」は4つとなった。さらに5月12日にはリチャード内野手と巨人の秋広優人内野手、大江竜聖投手との交換トレードが成立し、さらに枠は「3」に減った。そんな中で、次の“昇格候補”は誰なのか。

 今回はただ成績や能力が優れた選手を探るのではなく、これまでのホークスの傾向から“逆引き”で考えてみたい。過去にどのような投手が支配下登録されているかを分析し、今後の昇格投手を推測。その傾向をつかむため、シーズン途中の5月以降に支配下登録を受けた投手が該当年度に残した2軍成績を見てみる。

“候補”として注目したいのは2投手

 データを見てみると、防御率や勝敗がずば抜けて良かった投手ばかりが支配下登録されたわけではないことがわかる。たとえば2023年の木村光投手は2勝4敗で防御率3.41。ホークスのフロントは、支配下登録する投手を選ぶ際に勝敗や防御率を重要視しているだけではなさそうだ。

 それ以外のデータに目を向けると、対戦打者に占める三振の割合を示す三振%(三振÷打者)が優れた投手が多いことに気付く。三振%のウエスタン平均が約18%なのに対して、2021年の大関友久投手は26.3%、2022年の中村亮太投手は24.7%、2020年の渡邊雄大投手に至ってはなんと41.7%を記録している。ホークスのフロントが支配下登録する投手を選ぶ際には、奪三振能力が重要な基準の1つとなっている可能性は高そうだ。

 ただ、それだけが基準というわけでもなさそうだ。表中の投手のうち前田純投手、三浦瑞樹投手、木村光の3人は三振%がリーグ平均か、やや下回る程度にとどまっている。それにもかかわらず彼らが支配下登録されたのは、先発として多くのイニングを消化したためだ。前田純は2024年、チームトップの106イニング1/3を消化。三浦は前田純に次ぐ95イニング2/3、木村光も2023年にチーム5位の63イニング1/3を消化した。ホークスのフロントは、支配下登録する選手を選ぶ際に先発投手であればイニング消化能力を重要視しているように見える。

 つまり、ホークスで過去に支配下登録を果たした育成投手は、奪三振能力かイニング消化能力のどちらかに明確な強みを持っている傾向があると言えそうだ。

 この傾向を踏まえたうえで、今季の支配下登録候補となりそうな投手を探ってみよう。5月1日時点で2軍戦に登板している育成契約の投手は7人。この中で、奪三振能力もしくはイニング消化能力に強みを持っている投手はいるだろうか。

際立つ「30.0%」も…3年目左腕の課題は“左右差”

 まず投球回を見ると、最も多い宮崎颯投手と井崎燦志郎投手でもわずか10イニング2/3。もちろんまだ5月に入ったばかりで、消化イニングが少ないのは当然だ。とはいえ、それを考慮してもなお表中の投手7人の投球回は少ないと言わざるを得ない。これは彼らの大半が救援として多く起用されているからだ。ここまでを見る限り、イニング消化能力で支配下登録の条件をクリアしている投手は見当たらない。

 奪三振能力はどうだろうか。三振%が際立っているのは、宮崎(30.0%)と川口冬弥投手(27.8%)だ。宮崎は2022年の育成8位指名で東農大から入団した24歳の左腕。今季3年目にして2軍初登板を果たした。川口は2024年の育成6位指名で四国IL徳島から加入した25歳の右腕だ。この2人は奪三振の多さという点で、支配下登録候補として注目すべき存在と言える。

 ただし、この三振%だけを見て彼らが支配下登録に十分な実力を備えていると断言することはできない。彼らの登板数はまだ少なく、対戦打者は40人ほど。開幕して1か月ほどの段階では打率4割を超える打者が数人出ることがあるように、彼らの三振%も上振れている可能性がある。三振だけで彼らの能力を判断するにはもっと多くの対戦が必要だ。そこで奪三振能力と結びつきの強い、1球単位のデータである空振りをどれだけ奪えているかで2人の力を見ていこう。

 まずは宮崎から見ていこう。投球全体に占める空振りの割合を示す空振り%(空振り÷投球)は12.0%。これはリーグ平均(9.0%)よりも優秀だ。これだけ空振りが奪えるのであれば、三振%が優れているのも当然だろう。

 ただし、打者の左右で宮崎の空振り%には明確な差がある。宮崎は左相手の空振り%が15.2%と非常に高く、リーグ平均(9.0%)を大きく上回っている。これは宮崎が横に大きく曲がるスライダーを武器にしていることも関係しているかもしれない。左打者に対しては1軍レベルでも十分に通用しそうだ。

 一方で、右打者相手の空振り%は8.8%で、リーグ平均(9.0%)とほぼ同水準にとどまっている。2軍でも平均程度となると、1軍レベルの右打者相手ではさらに空振りを取れなくなる可能性が高い。空振りを奪う能力が全てではないが、現状では右打者を安定して抑えるのは難しいと言えるかもしれない。

 そうなると、1軍でどのような起用が現実的か。対右打者の空振り%に不安が残る以上、1イニングを任せるというよりは、かつての森福允彦投手や嘉弥真新也投手のような左打者相手に限定した起用が考えられる。いわゆる「左打者キラー」のような限定的な起用であれば、戦力化するかもしれない。

ルーキー右腕は三振%と空振り%に大きな相違

 では川口はどうだろうか。川口はまだ9試合しか登板していないにもかかわらず、すでに抑えとしてマウンドを任される場面も目立っている。実際の投球映像を見ると、オーバースローから力強いストレートとフォークを投げ込む投球スタイルだ。これだけを聞くと、空振りを量産する投手というイメージが思い浮かぶ。

 だが、空振り%を見ると印象は大きく変わる。川口の全投球における空振り%は6.5%。ストレートに至っては5.0%と、リーグ平均(9.0%)よりもかなり低い。決め球としているであろうフォークですら9.1%と、リーグ平均程度にとどまっているのだ。

 ただ、空振りが取れていないからといって川口のボールが効果を発揮していないとは言い切れない。というのも、川口のフォークは投球に占める見逃しストライクの割合が18.2%。空振りこそ少ないものの、2軍の平均的なフォークの見逃しストライク率(約8%)に比べて、かなり多くの見逃しを奪うことができている。少なくともフォークに関しては2軍レベルでは武器になっていると言えそうだ。今後も登板を重ねる中で空振りが奪えるようになれば、2桁背番号を勝ち取る未来も見えてきそうだ。

 このように三振%の高さだけを見ると宮崎と川口は今季の支配下登録候補として有力に映る。しかし、1球ごとのデータを見ていくと、それぞれに課題が浮かび上がる。宮崎は右打者への対応、川口は決め球のフォークを含めて空振りが取れていないことが懸念材料だ。もしこれらの課題が克服されたとすれば、苦しむホークス投手陣の救世主となりうるかもしれない。たとえ今季中の支配下登録が叶わなかったとしても、今後に期待が持てる有望な投手であることは間違いない。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。