コーチが確信した決め手とは?
「1番・遊撃」が魅せるプレーには華がある。野村勇内野手の起こした変化を、首脳陣は見逃さなかった。4月25日の楽天戦(楽天モバイルパーク)の練習中、野村は左翼の練習を行っていた。その背景には、打力を生かしたいという首脳陣の意図があった。
その後も左翼で起用されることはなかったものの、今宮健太内野手が5月1日に登録抹消されて以降は主に「1番・遊撃」で出場を続けている。23試合に出場して打率.372、2本塁打、3打点、出塁率.438。打撃面で見せていた変化をいち早く見抜いていたのが、村上隆行打撃コーチだった。
左翼起用プランが首脳陣の間で共有された時点では出場機会は限られており、わずか3打席しかチャンスがなかった。だが村上コーチは、野村の中に確かな成長を感じ取っていた。「使いたい」――。そう思わせた理由は、最大の課題が改善されていたことにある。
見えた成長「面白いんじゃないかと」
「これまでは何でも飛びついてしまうところがあったけど、我慢できるようになって、仕留めるっていうことができるようになったっていうところで成長が見えたので。試合で使ってみる方がいいんじゃないかと提案しました」
2024年シーズンを終えた時点で通算348打席で、K%(三振割合)は33%。昨季のチーム平均20%と比べても、確実性に課題があることは明らかだった。ボール球を振らずに、打てる球を仕留めること。自分自身と真摯に向き合い、取り組んできた。「(最先端の打撃練習マシン)トラジェクトアークもやりつつ、ずっと実戦の対応の仕方を練習している」と、できるだけリアルにゲームを意識した打撃練習を積んできた。その成果は、コーチの目にも明らかだった。
「打線が繋がらないという中で、一発もある選手ですし、面白いんじゃないかと思いました。バッティング練習を見ても、実戦でもいけるんじゃないかと感じたんです」。現在はOPS.1.065という成績をマーク。出塁率も長打力も兼ね揃えているのだから、1番打者として期待通りの結果を残している。
期待する今後の継続…「とにかくチャンス」
村上コーチは「本人が頑張った。しっかり準備をしているので、そのまま続けてほしい」と目を細める。主力の離脱が続く中、たとえメンバーが戻ってきたとしても、その勢いを止めてほしくないと願っている。
「若手はとにかくチャンス。主力がいない時にレギュラーを奪う気持ちで彼もやっているし、活躍してつかんでほしいですね」
俺を使ってくれ――。そんな野村の気持ちは常に感じていた。熱い想いを胸に、課題と向き合い、成長を遂げた99番。その努力と村上コーチの慧眼が、今の躍動に繋がっている。
(飯田航平 / Kohei Iida)